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フランス語について

春木 仁孝

日本語の中のフランス語


 先ず最初に日本語の中に入っているフランス語について見てみましょう。日本語の中にはたくさんのカタカナ語が使われていますが、探すと結構たくさんのフランス語がみつかります。

 たとえば、最近よく「プチ整形」だとか、「プチダイエット」のような表現を耳にしますが、このプチというのはフランス語で「小さい、ちょっとした」という意味の形容詞です。とにかく何でもフランス語だとおしゃれな感じがするので、大きいものはマンションから小さいものはケーキまでいろいろな商品の名前に、よくフランス語が使われています。ちょっとおしゃれな喫茶店にでも行ってメニューを見ると、ガトーショコラやミルフィーユなどというケーキの名前を見るのはすっかり当たり前になりました。ガトーショコラはフランス語でチョコレートケーキのことです。ミルフィーユの方はちょっと難しいのですが、ミルは「千」で多いことを表します。フィーユは「木の葉」や「薄いもの」を意味していて、全体で薄いパイ生地が何層にもなっているケーキの形状を表しています。ただし発音はかなり違っていて、本当ならミルファイユまたはミルフェイユとしたいところです。ケーキを食べながら飲むカフェオーレというのもフランス語です。フランス語ではカフェオレと発音しますが、なぜか日本語に入ってカフェオーレと長くなったようです。喫茶店ではパフェという商品がありますが、これもフランス語でパルフェがなまってパフェになったようです。パルフェはparfaitと綴り、英語のパーフェクトと同じ意味です。つまり何種類かのフルーツやアイスなどが入っていて、まさに完璧なものというところから来たのでしょう。

 阪大に来るのに阪急電車に乗って来る学生さんも多いかと思いますが、阪急電車のラガールカードというのはラガールというフランス語とカードという英語を合成したものです。ラガールのラは定冠詞の女性形です。ガールはガレージなどと関係のある言葉で、「駅」という意味です。ですから、ラガールカードは、考えて見れば「駅カード」という変な名前なのです。ちなみにJR大阪駅のショッピングモールのガレ大阪という名前のガレは、このフランス語の駅gareという言葉の発音を間違えたものです。ラガールカードとまあ、どっこいどっこいでしょうか。このようにフランス語のつもりで発音を間違えてカタカナで書かれている例は枚挙にいとまがありません。

 がらっと話は変わりますが、カツラのメーカーにアデランスというのが有りますが、実はこれもフランス語で、「ぴったり張り付くもの」というような意味です。まあ、考えてみれば確かにそうですが、あまりにももろ、という感じがしますね。

 もう一つ、意外な例を挙げておきましょう。皆さんの誰もが、子供の時に綱引きをしたことがあると思いますが、そのときに言ったのはどんなかけ声でしたか。関西では、「オーエス、オーエス」というのが一番普通だと思いますが、実はこれもフランス語なのです。これはフランス語の間投詞Ohと、hisser「引く、引っ張る」という意味の動詞の命令形から来ているのです。早くから外国に開かれていた神戸の港にフランスの船も来ていたのでしょう。その頃はまだ帆船も多かったのでしょう。帆船で帆をあげるためにロープを引くときにフランス人の船乗り達が「それ引け、やれ引け」のような感じで言っていたフランス語の発音が多少変形して(たぶん船員を介して)「オーエス」になって、綱を引くときに使うかけ声として定着したもののようです。

 新しい言葉だけでなく、意外なところにフランス語から来た言葉やフランス語と関係のある言葉が使われていたりしますが、このサイトでまたそのような話題の記事を追加していく予定です。

 それでは次に、フランス語そのものについて簡単にお話しましょう。

他のヨーロッパの言葉との関係

 フランス語はイタリア語やスペイン語、ポルトガル語、そして地理的には少し離れますがルーマニア語などと近い関係にある言葉で、これらの言語は総称してロマンス(諸)語と呼ばれています。これらの言語は、地中海全域に勢力を誇ったローマ帝国の言葉であったラテン語が、それぞれの地域で土着の言葉や周りの言葉の影響などを受けながら、独自の変化をとげて今の形になったものです。フランス語はもともとその地にいたケルト民族の話していたゴール語(ガリア語)の上にラテン語が重なり、後からフランスの国名にもなったゲルマン系のフランク族が侵入してきて、彼らの言葉であるフランク語がさらに影響を与えてできあがった言葉です。

 一方、みなさんの殆どが初めての外国語として習われた英語は、オランダ語やドイツ語、またデンマーク語やノルウェー語、スエーデン語、アイスランド語などの北欧諸語と近い関係にあり、これらの言語は総称してゲルマン(諸)語と呼ばれています。

英語との関係

 さてこのロマンス諸語の祖先であるラテン語と、ゲルマン諸語の祖先であるゴート語もずっと歴史をさかのぼれば同じ祖先にたどり着くので、ドイツ語や英語とフランス語とはかなり遠い親戚関係にあると言えますが、ドイツ語とフランス語を並べてみても素人目には似ても似つかぬ言葉どうしにしか見えません。

 一方、英語の方は、「遠くの親戚よりも近くの隣人」のような言い回しもありますが、ドイツ語よりもずっとフランス語に近いように思えるぐらい、フランス語とは共通点があります。それは、時には泳いで渡る人もいるぐらいの近さの英仏海峡を隔てて隣り合わせのイギリスとフランスとは歴史的に密接な関係にあったことと、フランス語の祖先であるラテン語が、ヨーロッパにおいては長く、中国語が日本語や韓国語に対して果たしていたような役割を持っていたことに理由があります。歴史的には1066年の『ノルマンの征服』と呼ばれる事件の後、フランスのノルマンディー地方の貴族が同時にイギリスの王家でもあるという状態になり、以後300年以上にわたってフランス語がイギリスのいわば公用語として用いられたのです。ロビンフッドがいたとされる時代には、イギリスの支配階級の人たちは主にフランス語を話していたのです。英語とフランス語が併存していたこの間に、英語は様々な面においてフランス語から大きな影響を受け、直接的な借用や翻訳借用などが起こりました。おまけに、フランス語を飛び越してラテン語からの借用もあるため、現代英語の語彙の半数以上がフランス語またはラテン語に由来するものとなっています。もちろん、犬(dog/仏:chien)、父親(father/仏:père)、家(house/仏:maison)のように基本的な単語はあまり借用されることがないので、似ていない場合が多いのですが、抽象的な意味を表す単語になればなるほどフランス語やラテン語に由来する単語が増えてきます。

 このような理由で、学習において英語の知識が一番生かせる外国語はフランス語であると言っていいでしょう。table, possible, constructionなど、英語とフランス語で綴り字が全く同じ単語も少なくありません。あるいはfutur, classe、adresseのように少しだけ綴り字が違っているものも、類推で意味をある程度予想することができます。熟語などでもそのまま英語に単語を置き換えて見ると、知っている英語の熟語になったりと、英語の知識がフルに生かせます。

フランス語の発音

 英語の知識が生かせると言っても、発音はかなり違います。英語が強弱アクセントを持つ言語であり、アクセントの無い母音は非常に弱くまた曖昧になるのに対して、フランス語は強弱アクセントによる言語ではなく、一つ一つの母音がはっきりと発音されます。この点は音節言語である日本語の話者には発音しやすい言語です。ただし、日本語や英語と違って、口の形をしっかりかまえて筋肉を緊張させて鋭く発音しなければいけないところが最初は少し難しいのですが、慣れれば力を抜いてもフランス語らしく発音することが出来るようになります。1年もすればフランス人と比べても遜色のない発音が出来るようになります。

 フランス語には鼻母音があるので有名ですが、特に難しいわけではありません。たとえば日本語で「アンパン」と言ってみると、「ア」の途中から息が鼻に抜けて行きますがその部分の音を独立させた音だと思えばいいでしょう。英語の音がどちらかと言えば後ろよりで発音されてこもりがちになるのに対して、フランス語の音は口の前の方で発音されることが多く、英語に比べれば明るい音になります。また、[p][b]といった破裂音も強い息を伴ないません。さらに[t][d]など英語では歯茎に舌をつけて発音する音も、フランス語では上歯の裏に舌の先をつけて発音されます。鼻母音の存在もあいまって、フランス語の音が明るく柔らかい感じになるのはこれらの特徴があるからです。

 英語の得意な人が注意しなければいけないのは、l(エル)の発音です。英語ではmilkがミウク、beautifulがビューティフのように聞こえるように、位置によっては舌を後ろに引いて半ば母音化した暗いこもった音になりますが、フランス語では常に舌の先を歯茎から上歯の裏につけて発音するので、はっきりした明るい音になります。またrの音も英語と大きく違っています。例えばフランス語で「ありがとう」の意味のmerciという単語やパリを意味するParisは、綴り字を知らずに素直に聞こえるようにカタカナで書いたら、それぞれメフスィ、パヒとなるでしょう。つまりrの発音は、英語のrや日本語のラ行の音などよりも、ハ行の音に近いのです。

フランス語の特徴

 文法についても、フランス語と英語との間にはいろいろと似ている部分もあります。先ず基本的な語順が<主語-動詞-目的語>というように、英語と同じです。また、単数/複数の区別があることや、名詞には冠詞が付く点も同じです。ただ、形容詞は基本的には名詞の後ろに置くという点が大きな違いです。毎年11月になると、「ボージョレ・ヌーヴォー」という言葉が話題になりますが、これは「ボージョレ」という銘柄のワインの新酒という意味で、ヌーヴォーは「新しい」という意味の形容詞です。英語ならば「ニュー・ボージョレ」と言うところです。姉妹関係にあるスペイン語やイタリア語でも同じですが、タイ語なども形容詞が名詞の後ろに来ます。つまり世界には形容詞が名詞の前に来る言葉と、後ろに来る言葉があるのです。ちなみに英語はこの点では中途半端な言葉で、形容詞に相当するものが長くなると名詞の後ろに来るようになります。a girl standing over there や the book that I bought yesterday のイタリックにした現在分詞や関係代名詞による修飾部分がそうです。つまり、日本語では名詞にかかる修飾語句は常に名詞の前に来て、フランス語では常に名詞の後ろに来ますが、英語は折衷型というわけです。(ついでですが、英語でもsecretary general, something new, Japan proper, mission impossibleなどのように形容詞が名詞の後ろに来ることがあります。)

 次に、フランス語の名詞には性があります。名詞は男性名詞と女性名詞とに別れます。ドイツ語やロシア語には中性名詞というのもありますが、幸いフランス語にはありません。例えばtableという名詞は女性名詞です。一方、café「コーヒー」は男性名詞です。名詞を覚えるときには、その名詞が男性なのか女性なのかを一緒に覚えなければいけません。これは別に「テーブル」が女で、コーヒーが男だと言っているわけではありません。名詞を二つのグループに分けて、mère「お母さん」や fille「女の子」、tante「おばさん」のように女性を表す名詞が含まれる方のグループを女性名詞、père「お父さん」や garçon「男の子」、oncle「おじさん」のように男性を表す名詞が含まれるグループを男性名詞と呼んでいるだけです。これは一見、面倒なように見えますが、日本語でも数えるときに一本、二本と数える名詞、一枚、二枚と数える名詞、のように名詞を幾つかのグループに分けているわけで、それを大々的にそして義務的にやっているだけだと思えばいいのです。

 動詞については英語よりは面倒です。でもドイツ語やラテン語、ロシア語などに比べるとずっと簡単です。英語では現在形、過去形、過去分詞形をcome-came-come のように覚えますが、フランス語では原則として人称と単数複数によって語尾が変化するので、現在形だけでも六つの形があることになります。でも語尾が結局同じ形だったり、実際の発音は同じだったりするので、最初に思うほどは大変ではありません。
 以上、特に英語との違いを中心に簡単にフランス語の特徴を述べてみました。

 昔から言われるように、語学には習得のための簡単な方法というのはありません。一番大事なのは継続ですが、やる気があるときには集中してやることも大切です。息が切れたらちょっと休んで、もう一度元に戻って同じところを繰り返しやるのも効果的です。ある人がこれを「壁塗り方式」と呼んでいました。2回目、3回目は前よりも理解が早いので勢いがつきます。その勢いでさらに前に進んでいき、息が切れたら休んで、また元に戻りもう一度挑戦する。この繰り返しが基礎をしっかりしたものにします。後は自分にあった学習方法を見つけて、正面からだけでなく搦め手からもせめていくことです。

 英語が苦手な日本人とよく言われますが、それでも英語が分かる人、話せる人はかなりいます。でも、フランス語となると、理解できたり話せたりする人の数はぐっと少なくなります。たくさんの人がやっていることをするなんてつまらないと思いませんか。そう思ったら、フランス語に挑戦してみましょう。日本語や英語で見える世界とは全く違う世界が見えるようになることは保証します。

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