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世界の中のフランスの位置

三藤 博

 別の項目で詳しく解説されているとおり,フランス語はもちろんフランス以外でも話されていますが,この項目では現代のフランスについて簡潔にまとめてみます.

 フランスの正式国名は「フランス共和国(La République française)」といい,現在は「第5共和制」という,大統領を国の元首とする共和政体です.「第5共和制」は,フランスの元植民地であったアルジェリアの独立をめぐって起こったアルジェリア戦争の解決のために,一度政界からは引退していたフランスの国民的英雄ド・ゴール将軍(第2次世界大戦でフランス本土がナチスドイツに占領された時,ド・ゴール将軍はロンドンで亡命政府「自由フランス」を樹立し,またロンドンからBBCのラジオ放送を通じてフランス国民に対して「レジスタンス(ナチスドイツへの抵抗運動)」を呼びかけました.ナチスドイツに占領されて暗い毎日を送っていた中,ラジオから聞こえてくるド・ゴール将軍のレジスタンスへの呼びかけに,必ずナチスを撃退して自由と民主主義の祖国フランスを再びよみがえらせるぞと,生きていく希望を取り戻したフランス人はとても多かったのです.戦後は大統領に就任し,世界の中でのフランスの地位向上のために非常に尽力しました.)がまた呼び戻されて大統領についた時にでき上がった体制です(1958年第5共和制開始).大統領がいますが,アメリカ合衆国などとは違って首相もいて,大統領が主として外交,安全保障面を指揮し,首相が主として内政面を指揮する,という体制で,「半大統領制」と呼ばれることもあります.大統領は国民の直接選挙で選ばれ,任期は5年です.現在はサルコジ大統領で,第6代の大統領です.サルコジ大統領は去年(2007年)の5月に就任しましたので,任期は2012年までということになります.

 フランスはイギリス,ドイツ,イタリアなどとともに,EU(ヨーロッパ連合)の中核の国となっていますが,島国でありまたEUの統一通貨ユーロを使っていないイギリスを除いて考えると,ヨーロッパ大陸のEU圏の中心はフランスとドイツだと言えるでしょう.この両国は,外交,安全保障,政治,経済など様々な分野でのEUとしての政策を決める時にいつもリーダー的役割を果たしています.現在EUは世界の中での存在感,発言力が大変大きくなっています.イラク戦争開戦の直前,最後まで戦争に反対していたEU諸国を代表してフランスのド・ヴィルパン外相(当時.今は首相になっています)が国連総会の場で開戦反対の大演説を行なった時には,スタンディング・オヴェーションとなった国連総会の議場からの拍手がいつまでたっても鳴り止みませんでした.日本では,マスメディアも含めて,国際問題についてはアメリカ合衆国の立場に同調していることが多いように思われますが,EUの存在感が世界の中で大変大きなものになっているという事実を知り,そのEUの立場がどのようなものかが分かるようになれば,世界の動きについてバランス感覚を持って判断することができるようになると思います.

 思想,文学,美術,映画,ファッション,料理といった文化のさまざまな面でフランスが昔も今も世界をリードする中心の一つであることは,皆さんもよくご存じのとおりでここで改めて繰り返すまでもないと思いますが,フランスは実体経済の面でも世界のトップクラスの存在です.GDP(国内総生産)では,2007年現在で,アメリカ,日本,ドイツ,中国,イギリスに次ぐ世界第6位につけ,輸出額ではドイツ,アメリカ,中国,日本に次ぐ世界第5位です(輸出額は2005年現在).輸出額の中でも農産物輸出額に限ればアメリカに次ぐ世界第2位の地位をずっと不動のものとしています.また,フランスというとバカンスやカフェのイメージが大きくて,なんとなくフランス人は日本人ほど勤勉に働いていないような漠然とした感覚があるかも知れませんが,事実は全く逆であり,フランスの労働者1人1時間当たりの労働生産性は,1994年から2003年までの10年間は(驚くなかれ)アメリカはもちろん,勤勉というイメージの強いドイツをも上回って世界第1位の座をずっとキープしていました.2006年の統計では,わずかの差でノルウェー,アメリカに抜かれて3位になっていますが,いずれにしても,フランスはドイツや日本よりも高い労働生産性を誇っているのです(以上,労働生産性に関する統計は国際労働機関(ILO)の発表による).長いバカンスがあり,週35時間労働が法律による標準とされている(現在フランスの中でも,これでは短かすぎて国際競争に負けてしまうという議論が起こり,法律の改正が検討されたり,経営陣と労働組合との交渉によって実際にはもう少し多くするような制度が導入されたりしているところですが)など,フランス人が余暇を楽しんでいることは事実間違いありませんから,総じてフランス人は働く時はみっちり働いて,その分プライベートの時間もしっかり取るというライフスタイルによって人生を楽しんで暮らしている,と言えるのではないでしょうか.

 また最近は,日本での出生率の急速な低下に関連して,今のままでは日本の人口が将来は激減してしまうという心配から,日本とは逆にフランスではさまざまな施策をうまく組み合わせることによって出生率の急回復に成功したという話題が,日本の新聞やテレビの報道でもよく取り上げられるようになりました.また,フランス版新幹線TGVがパリを中心として多くの路線が整備された結果,パリからかなり離れた地方圏で豊かな自然に囲まれたゆとりある暮らしを楽しみながら仕事にはTGVでパリに通う,というなんともうらやましいライフスタイルを実践している家庭も増えています.こうした面を見ると,経済統計の数字に表れてくる以上に(繰り返しになりますが,経済統計の数字も決して悪くないどころか,世界有数のよい数字なのです),フランス人の生活水準は高い,と言えるでしょう.

 こうしたフランス人の生き方,フランスという国のあり方は,我々日本人が今抱えているさまざまな問題の解決を模索していく上で,大変参考になる点が多いと思います.

 もちろん,現代フランス社会もいろいろな問題を抱えていることは,世界のどの国とも同じことです.フランスの場合は,皆さんもテレビや新聞の報道でご覧になったことがあるかと思いますが,パリの郊外などを中心として,移民,特にイスラム系移民及びその家族の人たちと伝統的なフランス社会との間の溝,摩擦の広がりが大きな(最大の,と言ってもよいかも知れません)社会問題となっています.

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