口述実録文学


【解説】

 「口述実録文学」は、「紀実文学」の一形式。テープレコーダー等を使って様々な人物にインタビューした素材を、筆者が文章にまとめ、社会の実態や人々の本音に迫ろうとするドキュメンタリー文学。張辛欣・桑曄『北京人』のほかに、馮驥才の『一百個人的十年』、戴晴・洛恪の『中国女性系列』などが発表されている。

張辛欣・桑曄「北京人」(『収穫』1985.1)

 張辛欣(1953-)は南京に生まれ、北京で中学卒業まで学んだ。16才の時黒龍江生産建設兵団に参加し農業労働に従事、後湖南で軍隊入りし、復員後北京に戻って看護婦となり、また北京医学院で学んだ。79年中央戯劇学院導演系に入学、卒業後人民芸術劇院に務めた。78年に処女作「在静静的病房里」を発表して以来、「在同一地平線上」「我們這个年紀的梦」「瘋狂的君子蘭」などの話題作を発表した。彼女は同世代の青年の苦悩、迷い、失意及び疎外感を、鋭いまなざしと辛辣なタッチで、時には西洋のモダニズムの手法を用いて描いたが、83年「精神汚染」批判キャンペーンで批判された。その後桑曄とのコンビで『北京人』を発表し、口実実録文学に新生面を切り開いた。

 桑曄(1955-)は北京生まれ。清華大学付属初級中学卒業後、電機工、購買員、新聞記者、編集者などの職を転々、現在は文学創作のほかに、新聞文芸欄の編集助手を務め、中国近代史の研究にも従事。
 「北京人」は、米国の華字紙『美洲華僑日報』に連載され、その後中国国内でも『上海文学』『収穫』等の雑誌に分載、上海文芸出版社が百編収録した単行本を出した。「一百个普通人的自述」と副題にあるように、百人のフツーの人々の話である。これを「北京人」=北京原人と題したところに、中国人とは何かを問う著者達の態度が窺える。(青野)

【研究資料】

@和田武司/田口佐紀子訳 『中国女性事情』 (草風館86.10)
A 大里浩秋ほか訳 『金は天から降ってこない』 (平凡社87.1)
B辻田正雄 「日常性の群像=張辛欣・桑曄──インタビュー北京人」 (『中国文学最新事情』サイマル出版会87.2)
C桑曄・張辛欣「関於《北京人》」(『上海文学』85.6)
D馮驥才著・田口佐紀子訳『ドキュメント庶民が語る中国文化大革命』(講談社88.12)
E戴晴ほか著・林郁訳『「性」を語り始めた中国の女たち』(徳間書店89.12)


作成:青野繁治