Shen Congwen 沈従文
(1902-1988)


沈従文小伝:

 近代著名作家、歴史文物研究家。二十年代中期に創作を開始するが、四十年代末には断筆する。著作の合計は短編小説が二百編余り、中長編小説10編余り、延べ三百万字にのぼる。

 作品の取材範囲は広く、思想内容は比較的複雑であり、その中でも、湖南省や貴州省辺境の少数民族の生活を題材とした作品に最も特徴があり、代表的作品として中編小説「辺城」がある。

 彼の作品には、中国大陸の二、三十年代の種々さまざまな面影と生活様式が著されている。創作方法、芸術的風格、文体形式のいずれの方面においても多様な特徴を有しており、中国近代小説の創作領域の開拓に独自の貢献をした。

 作品は主に@軍隊生活に取材したものA湖南西部の山岳部における苗族の生活に取材したものB都会生活に根ざしたものC童話、伝記物の改作D辺境地方の風土・民族に取材したものに大別でき、その流麗暢達な筆致は、茅盾をして「文字の魔術師」と言わしめた。


略年譜

1902年11月29日(12月28日の説も)

 湖南省鳳凰県(現、湘西土家苗族自治州)の軍人の家庭に生まれる。苗族 本名・沈岳煥 筆名に「休芸芸」「懋琳」「甲辰」「小兵」「炯之」「上官碧」などがある。

1915年
 新制小学校に入学

1918年
 母親の「世間で生きてゆけるよう」にとの願いから、補充兵として地元の部隊につき、水流域にて活動。

1922年
 「知を探求し、希望を求める」ため、湖西を離れ、北京へ上京するが、学校に入学できず、独学を志す。

1925年5月
 短編小説『屠卓辺』を『晨報副刊』に発表。

1926年
 小説、戯劇、散文、詩歌を一つにした作品集『鴨子』が上海北新書局から出版される。胡也頻と共に『京報副刊』『民衆文芸』を編集。

1927年9月
 短編小説集『蜜柑』が上海新月書局より出版される。

1928年
 北京を離れ上海へ。丁玲、胡也頻と相前後して雑誌『紅与黒』、『紅黒』を編集し、紅黒出版社を興す。また、長編童話『阿麗思中国旅行記』が『新月』1巻1号から8号まで連載、短編小説『老実人』が現代書局から出版され、『入隊後』が上海北新書局より出版、『雨後及其他』が上海春潮書局より出版される。

1929年
 呉淞中国公学校にて現代文学講師となる。短編小説集『龍朱』が紅黒出版社から出版され、『旅店及其他』が中華書局より出版される。中編小説『神巫之愛』が光華書局より出版される。

1930年
 武漢大学国文科にて講師をつとめる。中編小説『一個女劇員的生活』を『現代学生』1巻1期に発表。短編小説集『石子船』が上海中華書局より出版。『小説月報』(21巻1号)に『蕭蕭』を発表。

1931年
 青島大学にて教鞭をとる。

1932年
 1月短編小説集『虎雛』が上海中国書局より出版される。5月、伝記文学『記胡也頻』が光華書局より出版され、11月、短編小説集『都市一婦人』、新中国書局から出版。

1933年
 短編小説集『月下小景』が現代書局から出版。平北(現、北京)に戻り、『大公報』文芸欄の編集に携わる。

1934年
 1月中篇小説『辺城』が『国聞報』11巻1−6期に連載される。天津『大公報』文芸欄の編集に参加。伝記文学『従文自伝』が時代書局から出版される。『記丁玲』、『記丁玲続集』が上海良友復興図書印刷公司から出版。論文集『沫沫集』、上海大東書局より出版される。

1935年
 12月短編小説集『八駿図』、上海文化生活出版社から出版。

1936年
 3月散文集『湘行散記』が上海生活書店から出版。5月、小説選『従文小説習作選』、上海良友復興図書印刷公司から出版、11月、短編小説集『新与旧』、上海良友復興図書印刷公司から出版。

1937年
 1月論文集『廃郵存底』、上海文化生活出版社からされる。抗日戦開始後、青華大学、北京大学などの大学について南下、昆明西南連合大学にて文章創作を指導。

1938年
 散文集『湘西』、商務印書館から出版される。

1939年
 1月論文『一般与特殊』が『今日評論』1巻4期に発表される。12月、短編小説集『主婦集』が商務印書館から出版される。

1940年
 論文集『燭虚』が上海文化生活出版社から出版される。

1943年
 4月短編小説集『春灯集』が上海開明書店から出版される。6月、論文集『雲南見雲集』が重慶国民図書出版社から出版される。7月、短編小説集『黒風集』、上海開明書店より出版される。

1945年
 抗日戦勝利後、北京大学の教授に任命されると共に、『大公報』『益世報』『平明日報』などの文学欄の編集に携わる。

1948年
 8月、長編小説『長河』が上海開明書店より出版される。

1950年
 一万余字に及ぶ自己批判書を発表。中国歴史博物館に勤務。出土品や中国の絹織物を研究、故宮博物院などの職を兼任し、工芸美術デザインと物質文化史を研究する。

1967年
 湖北咸寧農場で労働する。

1978年
 中国社会科学院歴史研究所研究員に任命される。

1979年
 中国文学芸術工作者第4次代表大会に出席。

1988年
 死去。


作品集・単行本

『沈従文代表作選』新文學研究社編 百靈出版社
『沈従文甲集』一新書店
『沈従文選集』文學出版社
『春燈集』利文出版社
『邊城』南華書店
『沈従文自選小説集』
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『石子船』中華書局 1930
『沈従文選集』葉忘憂[他]編選 上海萬象書屋 1936
『従文小説習作選』良友圖書 1936
『記丁玲』上海良友復興圖書印刷公司, 1940
『廢郵存底』開明書店 1943
『長河』開明書店 1943
『新與舊』良友圖書公司  1945
『従文自傳』開明書店 1946
『沈従文傑作選』巴雷編選 新象書店 1947
『邊城』開明書店 1948
『湘行散記』開明書店 1948
『月下小景』開明書店 1949
『沈从文小説選集』人民文学出版社 1957
『長河』香港文利出版社 1960
『湘行散記』文利出版社  1960
『湘西』習之出版社 1976
『昆明冬景』習之出版社 1976
『従文自傳』香港匯通書店 1976
『廢郵存底』彙通書店, 1976
『黒鳳集』彙通書店, 1977
『沈従文文集』1-12 三聯書店 1982−1985
『神巫之愛』花城出版社 1983
『鳳凰』 凌宇編選 文化藝術出版社 1986.10/3.45元
『沈従文代表作』 中国現当代著名作家文庫 黄河文藝出版社 1987.5/3.25元
『沫沫集』 1934年 上海 大東書局印行 上海書店影印 1987.9/0.95元
『従文小説習作選』 京派文学作品専輯 上海良友図書公司 良友文学叢書 上海書店影印 1990.9/10.20元
『沈従文散文選集』周文彬編 百花文芸出版社 1991.2/4.00元
『湘行集』岳麓書社 1992
『沈従文自伝』 名人自伝叢書 江蘇文芸出版社 1995.9/15.40元

        

邦訳

『老舎・曹禺集』松枝茂夫/訳 平凡社 1962

『中国古代の服飾研究』沈従文・王◆D240◆/編著 古田真一・栗城延江/訳 京都書院 1995
「夫」 小島久代/訳 『中国現代文学珠玉選』1 2000.3.10


参考書

中文

『我所認識的沈従文』 朱光潜・張充和等/著 鳳凰叢書 岳麓書社 1986.7/2.00元
『沈従文研究 第一輯』 湖南大学出版社 1988.8/3.00元
『沈従文傳――生命之火長明』 凌宇/著 中国現代作家伝記叢書 北京十月文藝出版社 1988.10/6.75元
『長河不尽流――懐念沈従文先生』 巴金・黄永玉等/著 湖南文藝出版社 1989.4/7.50元
『沈従文傳』 金介甫/著 符家欽/訳 時事出版社 1990.10/6.50元
   Jeffery G.Kinkley :The Odyssey of SHEN CONGWEN(Stanford University Press 1987)の中国語訳
『沈従文研究資料』 花城出版社 生活・読書・新知三聯出版社 1991.1/上・下セット18.00元 
『沈従文――建築人性神廟』 中国現代作家探索叢書 呉立昌/著 復旦大学出版社 1991.9/3.95元
『恩怨滄桑――沈従文與丁玲』 李輝/著 百花文藝出版社 1992.11/6.20元

       

日文
『沈従文――人と作品』 小島久代/著 汲古書院 1997.6.1/本体3800円+税 
『沈従文 雨後を読む』 城谷武男・今泉秀人/編注解説 同学社 2001.4.1/本体2000円+税

 
作成:浅井正義(資料補充:青野繁治)