!!!ご挨拶 // 創世記の冒頭で、神によって創造された獣や鳥が人の前に連れてこられると、人はすべての獣や鳥に名前をつけたことが語られています。このような名称目録的な言語観は長い間支配的でしたが、それがひっくり返されたのは、今からちょうど100年前、言語学者ソシュールによってでした。名づけることによって初めてものは意味づけられるのであって、名づけられる前はそれ自体独立して存在するものではないとソシュールは考えたのです。言語活動とは、実体としてあるものに名前をつける作業ではなく、もともとはマグマのように切れ目の入っていない世界に切れ目を入れる作業だということになります。このとき初めて、ことばが人間の認識の問題として位置づけられたと言っていいでしょう。 // 1970年代、大阪大学言語文化部を嚆矢として、日本の大学で「言語文化学」や「言語文化研究」を標榜した部局が次々と生まれました。それらは68年以降の大学の変動の後に生まれたものですが、淵源をたどるとソシュールあたりに行き着くのかもしれません。「言語文化学」は、ことばを人間の思考活動の中心ととらえ、ことばの多様な側面を総合的に研究する学問です。言語文化の相互接触や変容は言うに及ばず、言語コミュニケーション、言語文化教育、言語認知科学、さらには数理モデルや言語理論を基礎とした言語工学的な情報処理に至るまで、幅広い領域を扱っています。 // 「言語文化学」は広義にとらえてもせいぜい100年ほどの歴史しかなく、2000年以上にわたって続いてきた哲学や歴史学に比べると若い学問だと言えます。それだけに未知の領域の多い分野だと言うことができます。大阪大学言語文化研究科は、このたび大阪外国語大学言語社会研究科と統合し、新たな二人三脚を始めることになりました。言語文化専攻と言語社会専攻が互いに切磋琢磨して、先人の切り開いた道を進んでいきたいと思います。 {{div_begin style='text-align:right'}} //言語文化研究科長・言語文化専攻長 //金崎 春幸 {{div_end}}   人間が人間として存在しはじめた当初から、言語と文化はその存在を特徴づけていたと考えられます。その原初の様態を明らかにするのは現在の私たちにとって難しいかもしれませんが、言語と文化が人間の存在や活動においてそれくらい根源的なものであることは間違いないでしょう。一方、20世紀後半から現在にいたる人文学においても、「言語論的転換」(linguistic turn)そして「文化論的転換」(cultural turn)と呼ばれる動きが起こってきました。一口にいうなら、哲学や歴史学などの学問分野において、また政治や経済など、私たちのさまざまな社会的営みにおいても、言語的また文化的な要素がいかに中心的な役割を果たしているかを認識し、その具体的なプロセスを考究しようとする研究動向です。   とはいえ、言語や文化とは非常に複雑かつ多面的な現象です。たとえば人間は、そもそもどのような仕組みによって言語を習得し、使いこなしているのか?言語を手掛かりに私たちが世界を認知するとき、あるいはお互いの意志や感情を伝えようとするとき、どのようなことが起こっているのか?人びとが各種の集団を作り上げる際に、どのような言語文化意識が働いているのか?グローバリゼーションや多文化共生という現代社会の趨勢のなかで、言語と文化はどのような役割を担っているのか?最先端の情報処理技術は、これらの言語文化研究にどのように寄与するのか?またこれらの言語文化を、次世代に向けてどのように教育していくべきなのか?   これらは、言語文化研究科・言語文化専攻が取り組んでいる課題の一部にすぎません。その研究領域はそれくらい幅広く、学際的といえますが、それらの研究を本格的に総合化・体系化するための課題もまた大きいといえるでしょう。   本研究科は1989年、この分野では日本で初めての研究科として発足してから、2005年の大規模な再編拡充と2007年の大阪外国語大学との統合という、2段階の大きな「進化」を遂げてきました。しかし、言語文化研究をさらに総合化・体系化するために、また、変化しつづける人びとの多様な営みに対応していくために、その教育研究の実質や体制を今後も変容し続けなければならないことでしょう。両専攻の教員と院生の切磋琢磨により、また学内外の方々のご協力を仰ぎながら、さらなる「進化」を図っていきたいと思います。 {{div_begin style='text-align:right'}} 言語文化研究科長・言語文化専攻長 木村 茂雄 {{div_end}} !!!言語文化研究科言語文化専攻の概要  言語文化研究科は人文・社会・自然の諸科学のいずれの分野からでも人材を受け入れ、それぞれの専門を基礎としながら、国際化・情報化社会の発展を推進していく人材の育成を目的とする、言語文化研究のためのわが国で最初に設立された大学院独立研究科である。  平成19(2007)年10月、大阪大学と大阪外国語大学との統合に伴い、言語文化研究科は「言語文化学専攻」を「言語文化専攻」と名称変更し、講座再編をおこなうとともに、「言語社会専攻」を新設して、2専攻となった。  言語文化研究科言語文化専攻は、言語文化比較交流論講座、言語文化システム論講座、 現代超域文化論講座、言語コミュニケーション論講座、言語文化教育論講座、言語情報科学講座、言語認知科学講座の七つの講座からなっている。  本専攻では、国際社会を構成する諸地域・諸国民の伝統や文化の相互接触や変容、これらの伝統や文化間の相違をこえて有効なコミュニケーションを成立させる言語や記号のメカニズムの解析、その運用と基礎的な言語理論の開発、自然言語の機械処理やその基礎となる数理モデルや文法理論を中心とした言語工学的な情報処理、国際的な情報社会における言語文化情報の活用能力の開発などの研究と教育にあたっている。またそのことによって、旧来の伝統的な枠組みを脱却した、言語を中心とする新しい学問領域での教育と研究の方法の確立と、指導者養成を目指している。  本専攻は入学者の出身学部等の如何を問わず、国際コミュニケーション社会において必要とされる言語と文化に関する高度の教養、ならびに情報活用能力を十分に発揮できる人材の育成を目的としているため、入学者は出身学部等における自己の専攻を基礎としながらも、この趣旨を十分にふまえて履修すべき授業料目を選択し、特定の研究領域にのみ偏ることがないようにしなければならない。一応の目安として、以下の3通りの標準的履修分野を想定し、研究指導を行うこととしている。 *分野1:言語文化比較交流論、言語文化システム論、 現代超域文化論を中心に履修する。 *分野2:言語コミュニケーション論および言語文化教育論 を中心に履修する。 *分野3:言語情報科学および言語認知科学を中心に履修する。 !!!沿革  言語文化研究科は、平成元 (1989) 年 4 月大阪大学言語文化部を基礎として言語文化学 1 専攻の修士課程で発足し、その後、学年進行にともない、平成 3 (1991) 年 4 月に博士課程が設置された。人文科学・社会科学・自然科学のいずれの分野からでも人材を受け入れ、それぞれの専門を基礎としながら、国際化・情報化社会の発展を推進していくことのできる、学際的な研究・教育の体系を築くことを目的としている。この分野の研究科としては全国で初めての大学院独立研究科である。  平成 3 (1991) 年には教官・学生をメンバーとする大阪大学言語文化学会が結成され、平成 4 (1992) 年 3 月より学会誌の刊行が開始された。そして、平成 6 (1994) 年 3 月、本研究科は新研究科棟の完成とともに、博士課程第1期生を送り出した。平成12(2000)年からは共同研究プロジェクトが始まり、院生をもまじえた活発な共同研究が継続されて毎年10を越えるプロジェクトの研究報告が刊行されている。  平成17(2005)年4月には研究科発足当時からの念願であった再編拡充が言語文化部の発展的解消により実現し、新設2講座を含む7基幹講座の体制で再出発することになった。  平成19(2007)年10月には、大阪大学と大阪外国語大学との統合に伴い、言語文化研究科は「言語文化学専攻」を「言語文化専攻」と名称変更し、講座再編をおこなうとともに、「言語社会専攻」を新設して、2専攻となった。