インターネットにおける若者ことばの表現スタイル
―日中対照考察を通じて―
1.インターネットにおける若者言葉
インターネットという「空間」において、若者による新しい言語使用が多く見られる。特に電子掲示板、チャット、オンラインゲーム、ブログなどのインターネットコミュニティにおいて多用されている。井上逸兵(2006)は、「若者の遊び心が日本語を変える。サイバースペース上では、匿名性、限定された記号の創造的活用、遊戯性などを特徴としつつ、日本語変換システムを駆使することで、『書く』行為が変質を遂げている。」と述べている。
中国のネット社会においても同じような現象が見られる。以下、日中対照言語学的に考察してみる。
2.日本語の場合
?絵文字・顔文字→ヴァリエーションが非常に多い
例えば、「笑い」を表現するのに、いくつかのタイプが見られる。
^_^(普通の微笑)、 ̄ー ̄(皮肉ぽく笑う)、^0^(大笑い)、≧∇≦(爆笑)など[1]
また、その下に更にいろいろなヴァリエーションがある。更にオノマトペと一緒に使うことによって、表現力いっそう高まる。例えば、(⌒▽⌒)ケラケラ、(T_T)シクシク
?カタカナをよく使う
例えば、大っキライ(大嫌い)、頑張りマス(頑張ります)、サイッテー(最低)など
?英語の単語をよく使う
例えば、OKでした。
また、略語としてアルファペットをよく使う。例えば、w(笑う)、ROM(Read Only Member:読むだけで書き込まない人のこと)
?記号の創造的活用
「ギャル文字」はその代表的なものである。「げんご」を「レナ〃ω⊇〃」と表記したりする(井上2006による)
3.中国語の場合
?簡体字を使わず、繁体字を使う。
兴 → 興 国 → 國 爱 → 愛
?漢字を使わず、ピンインを使う。
例えば、色彩→sē彩 无聊的时候(つまらない時)→无聊dё时候
?顔文字、絵文字、特殊符号よく使う。
日本と同じ、縦向きのものが多い。例えば、^−^(笑顔)、T_T(涙)、。。。。。。(沈黙)
?英語の単語を使う。
例えば、「Today心情超级郁闷〜〜」(今日の気持ちはスーパーブルーだァ〜)
?ローマ字、数字を使う(音が似ているところから)
例えば、变态→BT、哥哥(お兄さん)→GG、美眉(きれいな女の子)→MM、唯一 →唯1、
拜拜(byebye)→88、我爱你(愛している)→520
?常用漢字を使わず、難しい漢字を使う。または、偏とつくりにわけて使う。
天 兲 (発音同じのほかの文字を使う。形は元の字と似ていることが特徴)、强→ 弓虽
4.インターネットにおける若者ことばの表現スタイルの日中対照
今までの考察からも分かるように、ネットにおける若者ことばの表現スタイルについては、両国にはかなり近い傾向が見られる。例えば、絵文字・顔文字の使用、英単語の使用、記号の創造的活用においてほぼ同じように思われる。また、日本語の場合はカタカナを使ったり、中国の場合は繁体字やピンインを使ったりという異なる点もあるが、それは日本語と中国語のそれぞれの言語的な相違によって生じるものと考えられ、若者が既定の言語規範から逸脱したいという心理は日本においても中国においても同じであると考えられる。例えば、下表に示しているように、ヴァリエーションを作り出す時の発想はほぼ同じように思われる。
日本/中国
置き換えちょっと → チョット
ラッキー → らっきー
な → ナょ(ギャル文字)开 → 開
的 → de
娃 → せ圭
分割姉→女市强→弓虽
短縮こんにちは → こん、こんちゃ
ポルノグラフィー → ポルノ美眉(Mei Mei)→MM(注)
拡大と縮小ァハハハ哈哈,真笨。
注:日本では、「ポルノ」のような長いカタカナの単語「ポルノグラフィー」を短くするのが一般であるのに対して、中国の単語は元々短いので(多くでも4文字)、長さを短縮するのではなく、入力上の便宜をはかるためにピンインの最初のアルファベットを綴って意味を表す。例えば、「MM」は「美眉」(きれいな女の子)のピンイン「mei mei」の短縮形になる。
参考文献:米川明彦(1998)『若者言葉を科学する』明治書院
米川明彦(1998)『現代若者ことば考』丸亀ライブラリー
窪園晴夫(2006)『若者ことばの言語構造』月刊言語2006年3月号
窪園晴夫(2002)『新語はこうして作られる』岩波書店
井上逸兵(2006)『ネット社会の若者ことば』月刊言語2006年3月号
山下清美(2005)『ウェブログの心理学』 NTT出版株式会社
内山和也(2004)「e-textの文体論」(広島大学大学院教育学研究科博士論文)
山下清美(2000)「WEB日記の内容と文体の特徴」CmCC研究会第3回シンポジウム発表資料
内山和也(2003)「ブログの表現スタイルについて」第40回表現学会全国大会発表資料
『知恵蔵2005』 朝日新聞社
(文責:執筆時博士前期課程2年リュウ ロ)
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[1] 用例はすべて筆者が収集したものである。