!社会方言 Soio+lektの合成語。ラテン語のsocius「社会」とギリシア語のlexis「談話」に由来する。方言や個人語と同じく、ある個別言語の中の一変種。 社会集団語は、話し手の社会的所属性という条件に従って分類された変種を総称し、特殊語、専門語、グループ語、隠語を包括する上位概念でもある。  社会集団語の研究は、他の変種の研究と同じく、1960年代後半から、言語の非均質性に注目した社会言語学者によって推進された。ある特定の言語共同体の地域的な違いによって生じる変種(方言)の他に、社会的なグループに特徴的な表現形式が確認され、これを示す用語として "Dialekt"の類推からこの概念が用いられるようになった。英米の言語学では、これと併用してsocial dialect(社会方言)やaccent(アクセント)という用語が用いられているが、ロマンス系の言語学では、社会集団語という用語はあまり用いられておらず、社会的な領域を示す場合には、synstratie、diastrat、diastratischという用語が使用されている。 これまで、社会集団語は多義的に用いられており、それが様々な誤解をもたらした。これまでの見解を大まかにまとめると、次の4つに分けられる。(a) 地理的に区別されるあらゆる社会的なグループに存在するすべての変種。これに従えば、学生語、職業語、専門語、若者ことば、狩猟語、階層語等が社会集団語に含まれる。これはグリンツ(Hans Glinz)、ハイケ(Georg Heike)、レヴァンドフスキー(Theodor Lewandowski)等の見解であり、基本的には本稿でもこの見解に従っている。(b)職業や党派、社会階層等によって区別されるあらゆる社会的なグループに存在する特定の変種。これはヘーガー(Klaus Heger)やシェルファー(Peter Scherfer)の見解。(c)社会学的に実証し得る一つの、もしくは複数の社会的階層に同定される特定のグループに存在する一つの変種。これはラボフ(William Labov)、ホーセンス(Jan Goossens)、ハリデー(Michael A. K. Halliday)等の見解。(d)話し手の社会的な地位からの類推で、否定的、もしくは肯定的な価値が付与されるグループに存在する一つの変種。これはディットマール(Norbert Dittmar)やバウシュ(Karl-Heinz Bausch)の見解である。 ところで、社会集団語は特殊語やグループ語の上位概念であるため、それらに下位分類することができる。下位分類の際の第一の基準となるのは、どの社会階層に属しているか(低い階層・高い階層)、職業の種類(肉体的労働・知的労働)、さまざまな専門分野(専門語=専門変種)、性別、年齢、そして住居様式(都会対田舎)などの社会的要因である。しかし、これらの区別はとても大雑把で、十分なものではない。というのも、一般に社会集団語に数えられている多くの変種にとって決定的な意味を持つのは、単なる客観的な社会的メルクマールばかりではなく、通常そうしたメルクマールと相互に結び付く、話し手の主観的な態度(Attituden)だからである。その一例として、フェミニズムの変種が挙げられる。manという非人称代名詞のかわりにfrauを用いたり、両性を表す概念を、男性形だけでなく、女性形も用いる(Studentenのかわりに、Studenten und Studentinnenもしくは、StudentInnen)のがフェミニストの変種のメルクマールである。この変種は女性ばかりではなく、その使用によってフェミニズムの要望に理解を示そうとする男性にも用いられている。即ち、ここでは性別のような客観的な社会的要因ではなく、話し手のある特定の態度が決定的な使用条件となっている。 この話し手の態度と密接に結び付いているのが、社会集団語の社会的機能である。すなわち、話し手は社会集団語を使用することによって、一方ではその社会的所属性を示すことになるが、他方では、意識的にであれ、無意識的にであれ、所属する集団の結束性を高めることに貢献する。社会集団語は、その話し手の連帯性を象徴的に示すという社会的機能をもつのである。逆に、あるグループにおいてそのグループとは関係のない社会集団語を用いると、その話し手は差別を受けたり、疎外されたりする。これも同じく社会集団語の社会的機能によるものである。このような現象を解明して行くこともまた、今後の社会言語学、及び心理言語学の課題であろう。