1) 人称代名詞
それはいいやり方だね。実際に文章を発音してみるということが大事だね。じゃあ、いよいよ強から文法事項に入るよ。まずは動詞の現在人称変化だ。第1回の授業で、現在人称変化というのは、動詞や助動詞が主語の人称と数に応じて語形が変化すること、と説明したよね。でもその説明の前に、まずドイツ語の人称代名詞を覚えてしまうことにしよう。ドイツ語の人称代名詞には次のようなものがあるんだ。発音も練習してみてね。 単数: ich (イッヒ)「私は」(英:I) du (ドゥー)「きみは」(英:you) er (エァ)「彼は」(英:he) sie (ズィー)「彼女は」(英:she) es (エス)「それは」(英:it) 複数: wir (ヴィーァ)「私たちは」(英:we) ihr (イーァ)「きみたちは」 sie (ズィー)「彼ら、彼女ら、それらは」(英:they) 敬称2人称: Sie (ズィー)「あなた、あなたたちは」(英:you)
そうだね。たしかに英語だと2人称は全部 you で澄むのに、ドイツ語だと三つもあるからややこしいね。まず、ドイツ語の2人称には親称と敬称の二種類があるんだ。 親称2人称(単数 du, 複数 ihr): 親子、兄弟、子供、友だち、神様など、親しい間柄で使う。 敬称2人称の Sie は頭文字を常に大文字で書くんだ。逆に1人称単数の ich は文頭以外では小文字で書くんだよ。これは英語と大きく違う点だね。あと、3人称単数の sie 「彼女は」と3人称複数の sie 「彼ら、彼女ら、それらは」はどちらも同じ形だから、ちょっと紛らわしいね。敬称2人称も Sie だから、注意が必要だよ。とりあえず、以上の人称代名詞を何度も発音して覚えてね。イッヒ・ドゥー・エァ・ズイー・エス。ヴィーァ・イーァ・ズィー、ズィー、だよ。何度か口に出して言ってみて。
2) 不定詞と人称変化語尾 それじゃあ、動詞の話にはいるね。まず、ドイツ語では動詞の元の形、つまり英語で言う原形のことを「不定詞」と言うんだ。辞書に載っている動詞は不定詞の形で載っているんだよ。で、不定詞は必ず語尾が -en か -n で終わってるんだ。ほとんどの動詞は -en だけどね。不定詞から -en あるいは -n の語尾を取った残りが語幹と呼ばれる部分なんだ。図式で表すと次のようになるよ。 不定詞=語幹+語尾(en または n) このうち、語幹の部分は原則として変わらなくて、語尾の部分が主語の人称に応じて変化するんだ。その基本パターンを例で示すね。英語の come 「来る」に相当するドイツ語の動詞は kommen (コメン)なんだけど、語幹は komm- で、語尾が -en だよね。そうすると現在人称変化は次のようになるんだ。
この主語の数と人称に応じて変化した語尾を人称変化語尾というんだけど、それだけみると、e, st, t, en, t, en, en となっているよね。なお、敬称2人称は歴史的には複数3人称の sie を大文字書きしてできたものなので、動詞の人称変化形は必ず複数3人称と同じ形になるんだ。だからそれを省略すれば、e, st, t, en, t, en 「エ、スト、ト、エン、ト、エン」または「エストテンテン」という覚え方もあるんだよ。
これが動詞の人称変化のすべての基本になるから、しっかり覚えといてね。ついでに、主語に応じて人称変化した動詞の形を「定動詞」というんだ。逆に言えば、不定詞は主語が何になるか決まってないから、動詞の形が定まっていないので、不定詞というんだよ。定動詞は図式で表すと次のようになるね。 定動詞=語幹+人称変化語尾 じゃあ、次の動詞を同じように人称変化させてごらん。3人称単数は主語は er で代表させていいし、敬称2人称は動詞の変化形が複数3人称と同形だから省略して、ich, du, er, wir, ihr sie に対する変化形を書いてみて。 1) lernen (レルネン)「学ぶ」 2) singen (ズィンゲン)「歌う」
はい、正解です。 |
1) 語幹が d, t などで終わる動詞の場合 (口調の e がはいるもの)
おっと、安心するのはまだ早いよ。これにはいくつか例外もあって、その変形バージョンをまず3つほど覚えてもらおうか。まず最初は、 語幹が d, t などで終わる動詞の場合は、親称2人称単数複数、3人称単数のときに、口調の e と呼ばれるものが語尾の前に入る。 例で説明するね。英語の find 「見つける」に当たるドイツ語の動詞は finden なんだけど、これは語幹が find- で d で終わっているから、現在人称変化は次のようになるんだ。
赤で示したのが口調の e だよ。これはたとえば、findst (フィンドスト)とかfindt(フィンドト)とかだと言いにくいので、言いやすくするために間に e を入れたんだよ。上の表を見ればわかると思うけど、これで語幹の直後にすべて e がきてるよね。だから、語尾の e のないところ(-st, t)に口調の e が入るんだよ。じゃあ、arbeiten (アルバイテン)「働く」という動詞を同じように現在人称変化させてごらん。
うん、それでいいよ。ついでに arbeiten は日本語の「アルバイトする」という意味ではなくて、英語の work と同じで、普通に「働く」という意味だから、注意してね。
そうだね。とりあえずは d, t だけ念頭においておけばいいと思う。でも実はまだあるんだよ。たとえば、bn, chn, ckn, dm, dn, ffn,
gn, tm なんかだね。もうちょっと公式的な言い方をすれば、語幹が l, r 以外の子音+m, n
で終わる動詞のときもこのパターンになるんだ。一つだけ例を挙げておくね。begegnen (ベゲーグネン)「〜に出会う」という動詞は語幹が
gn で終わってる動詞で、現在人称変化は次のようになる。アクセントが第2音節の「ゲー」のところにあるから発音ちょっと注意してね。
d, t 以外のケースはそんなに多くないから、出てきたときに覚えるといいよ。それに慣れてきたら口調でなんとなくわかるようになるんだ。だからそんなに心配しなくていいと思うよ。
2) 語幹が歯音「ス、ツ、ズ」(s, ß, z, x)で終わる動詞
そうだよ。でも、実際にたくさんのドイツ語を口に出して読んでみて、語感を身につけるということが大事だね。そうすれば頭じゃなくて体で覚えられるようになるから。じゃあ、次のパターンに行くよ。 語幹が歯音「ス、ツ、ズ」(s, ß, z, x) で終わる動詞は親称単数2人称(du)のときの語尾が -t になる。 親称単数2人称のときの動詞の人称変化語尾は -st なんだけど、語幹が歯音「ス、ツ、ズ」(s, ß, z, x)で終わる動詞の場合は、-st の s が語幹末の歯音に吸収されてしまって、-t だけになるんだよ。じゃあ、例を見てみるね。reisen (ライゼン)という動詞は「旅する」という意味なんだけど、語幹が s で終わっているから、現在人称変化は次のようになるんだよ。
s の部分はあとが母音か子音かでにごったりにごらなかったりするから注意してね。
ちょっとまってよ。reisen は語幹が reis- だから、その s は語尾じゃなくて、語幹の s なんだよ。つまり、語幹 reis- + 語尾 -t なんだ。
そうだよ。「ライススト」なんて言いにくいでしょ。だから語尾の s が消えちゃうんだよ。じゃあ、sitzen (ズィッツェン)「座っている」という動詞を同じように現在人称変化させてごらん。
はい、よくできました。じゃあ、口調上の例外の最後のパターンに行くね。
3) 不定詞が -eln で終わる動詞
そうだね。さっきも言ったけど、頭で覚えようとしてもだめだよ。何回も口に出していったり、練習問題をやったりして、体で覚えなきゃ。野球の選手が何千回も素振りをやったり、バレーボールの選手がレシーブの練習をしたりするのといっしょだよ。口調上の例外最後のパターンは、不定詞が -eln で終わる動詞なんだ。ほとんどの動詞は不定詞語尾は -en なんだけど、-n だけのものもあるという話を前にしたよね。その中でも -eln で終わる動詞があるんだ。それで、 不定詞が -eln で終わる動詞は、1人称単数(ich)のとき l の前の e が消える。また1人称複数(wir)と3人称複数(sie)のときは語尾が -n だけで、不定詞と同じ形になる。 言葉による説明だけではわかりにくいと思うので、lächeln (レッヒェルン)「ほほえむ」という動詞を例にとって説明するね。
lächeln は語幹が lächel- だから、原則通りだと主語が ich のときは ich lächele なんだけど、l の前の e が省略されて、ich lächle となっちゃうんだよ。これは「イッヒ レッヒェレ」とちょっと言いにくいからなんだ。それから wir と sie のところも、原則通りだと wir lächelen, sie lächelen となるはずなんだけど、不定詞と同じく語尾は -n だけで、wir lächeln, sie lächeln となるんだよ。じゃあ、angeln (アンゲルン)「釣りをする」という動詞で、同じように現在人称変化を言ってごらん。
はい、正解です。 |
1) sein
うん、そうだよ。今回はとくに重要な不規則動詞を2つ覚えてもらうよ。まずは英語の be 動詞に当たる sein (ザイン)だ。これはかなり不規則な現在人称変化をするから、何度も口に出して覚えてね。
発音もちょっと注意してね。sind, seid, sind の最後の d はにごらないで「ト」だからね。
うん、よく使われるものほど不規則なんだよ。英語の be 動詞だって、am, are, is というふうに、かなり不規則だったでしょ。
2) haben じゃあ、次は英語の have に当たる haben だ。
これは親称2人称単数(du)と3人称単数(er)のところが不規則で、原則通りだと、du habst, er habt となるはずなんだけど、b が消えてしまって、du hast, er hat となってるんだね。あとは発音なんだけど、親称複数2人称(ihr)の habt の b はにごらないんだ。だから発音は「ハープト」だよ。
それじゃあ、最後に語順の原則をちょっとやっておこう。 |
1) 定動詞第2位の原則
いや、ちょっと違うんだよ。ドイツ語の場合は英語よりも語順は自由なんだ。ただし、定動詞の位置はけっこう厳しい規則があるんだよ。その中でも最も重要なのが、定動詞第二位の原則というものなんだ。定動詞というのは、前にも話したけど、主語に応じて人称変化した動詞のことだね。 定動詞第2位の原則: 主文では定動詞は2番目の位置にくる。 じゃあ、例を見てみよう。「私は今日ドイツ語を学びます。」をドイツ語で書いてみるよ。単語は次の通りだね。 ich (イッヒ)「私は」 heute (ホイテ)「今日」 Deutsch (ドイチュ)「ドイツ語」 lernen (レルネン)「学ぶ」。主語が ich のときは lernen は lerne と人称変化するよね。それで定動詞を2番目の位置において並べてみるよ。 Ich lerne heute Deutsch. (イッヒ レルネ ホイテ ドイチュ) 「私は今日ドイツ語を学びます」 これでいいんだよ。ただし、heute 「今日は」とか、Deutsch 「ドイツ語を」というのを最初に持ってくることもできるんだ。その場合でも、定動詞は2番目に置かないといけないんだよ。そうすると主語はその後に置かないとしょうがないんだ。 Heute lerne ich Deutsch. (ホイテ レルネ イッヒ ドイチュ)
「今日は私はドイツ語を学びます」
普通は間違いだね。だけど、定動詞を文頭におく場合もあるんだよ。
2) 定動詞倒置 定動詞を文頭に置くことを「定動詞倒置」ということもあるんだ。疑問詞のない疑問文、つまり、はい、いいえ、で答えられる決定疑問文では、定動詞を文頭に置くんだよ。たとえば次の文を見てごらん。 Lernen Sie heute Deutsch? (レルネン ズィー ホイテ ドイチュ) Sie は文頭でもないのに大文字になってるから、これは敬称2人称「あなた、あなたたち」だね。定動詞が文頭にあるから、決定疑問文となって、「あなた(たち)は今日ドイツ語を学びますか?」という意味の文になるんだよ。
そうだよ。その点は英語より簡単でしょ。疑問詞があれば、疑問詞を文頭に置いて、次に定動詞が来るから、疑問詞のある疑問文では定動詞第2位の原則に従うことになるよね。じゃあ、疑問詞 was (ヴァス)「何を」と疑問詞 wann (ヴァン)「いつ」、それに疑問詞 wo (ヴォー)「どこで」を使った疑問文を書いてみるね。
Was lernen Sie
heute? (ヴァス レルネン ズィー ホイテ) 「あなたは今日何を学びますか?」
そうだね。定動詞を文頭に置くのは、疑問詞のない疑問文以外にも、命令文、wenn の省略された文、doch などが入った強調文などの場合もあるけど、これらはまた後の課で出てきたときに説明するね。それともう一つ、定動詞を文末に置く場合もあるんだ。これもまた後の課で説明するけど、ドイツ語の文では、定動詞の位置は、第2位、文頭、文末、と三つのケースがあるんだよ。とりあえずそれだけ頭に入れておけばいい。
残念ながら、それはだめだね。主語は文頭以外だったら原則として定動詞の直後だよ。とくに主語が代名詞の場合はね。ただし、主語が長くて他の成分が短かったりしたら、主語が後に来るケースもあるんだ。それもまた出てきたときに説明するよ。とりあえず普通の文では主語は文頭か、もしくは定動詞の直後にくるのが原則だと考えておくといいね。
それはいい質問だね。答えを先に言えば、Ich lerne Deutsch heute. という語順の文は、間違いじゃないんだけど、ちょっと不自然なんだ。実はドイツ語では定動詞と結びつきの強い成分は文末にくるという原則があるんだよ。lernen という動詞は他動詞で、「〜を学ぶ」という意味だから、何を学ぶかという目的語を必要とするんだ。だからこの場合は「ドイツ語を学ぶ」ということで、Deutsch が動詞 lernen と強く結びついてるんだね。それで Deutsch を文末においた方が自然なんだよ。この文末という位置はドイツ語の語順ではすごく大事なんだ。だからちょっと注意が必要だね。じゃあ、今日はあと練習問題をちょっとやって終わりにしよう。 |
次のドイツ語を日本語に、日本語をドイツ語に訳しなさい。 1) Sie spielt morgen Tennis. (ズィー シュピールト モルゲン テニス)
うん、動詞は辞書には不定詞の形で載ってるんだ。ところが spielt は人称変化した形だから、不定詞の形に戻して引かないといけないよね。
うーん、ちょっと注意が足りないね。まず、sie は「彼らは」という意味のほかに「彼女は」という意味があるよね。さらに大文字だと Sie 「あなた、あなたたちは」の意味も考えられるね。ところがこの場合は、動詞の人称変化語尾が -t となってるでしょ。だから主語は3人称単数の「彼女は」ということになるんだ。もし「彼らは」だったら定動詞は spielen でないといけないよね。
もう一つ間違いがあるよ。Morgen と morgen を区別しなきゃ。大文字で始まる Morgen の方は名詞で「朝」という意味だけど、小文字の morgen の方は副詞で「明日」(英:tomorrow)という意味なんだよ。間違いやすいから気を付けてね。ついでに morgens という単語もあって、これは副詞で「朝に」という意味だね。
うん、ドイツ語では未来のことでも、ある程度確実なこととして断言するのであれば、現在形で言っていいんだよ。じゃあ次ね。 2) Was machen Sie jetzt? (ヴァス マッヘン ズィー イェッツト)
ちょっと待って。「あなたは今何をしますか」というのは日本語としてちょっと不自然だね。「あなたは今何をしているのですか」とでも訳した方がいいよ。
ごめん、説明するの忘れてたね。ドイツ語には現在進行形はないので、現在進行中のことも現在形で表すんだよ。
はい、正解です。じゃあ次。 3) Was trinkt ihr gern? (ヴァス トリンクト イーァ ゲルン)
うーん、間違いとは言わないけど、日本語としてちょっと不自然だね。gern はたしかに「好んで」という意味だけど、この場合は「〜するのが好きだ」と訳す場合が多いんだ。だから「きみたちは何を飲むのが好きかい」とでも訳すといいよ。それでも日本語としてちょっと不自然だと思うんだったら、もうちょっと意訳して「君たちは飲み物は何が好きかい」とでも訳したらどうだろう。
うん、そんなもんでいいよ。じゃあ、次は和文独訳の問題だ。 4) きみはダンスが好きかい。−うん、ぼくはダンスが好きだよ。(tanzen, gern, ja)
うん、それで正解だよ。
残念ながらないんだ。だからドイツ語の場合は ja 「はい」、 nein 「いいえ」 だけで止めておくか、完全な文を続けるかどちらかなんだよ。じゃあ最後の問題だ。 5) 彼はどこで待っているの?−あそこで彼は待っているよ。(wo, warten, dort)
はい、よくできました。 |