Shǐ Tiěshēng
史鉄生
し・てつせい
(1951- )


史鉄生小伝:

 1951年1月北京に生れる。
 1958年から1964年まで北京東城区王大人胡同小学で学んだ。その後北京清華大学附属中学に合格。初級中学部2年目が終わらないうちに文化大革命が始まり、それ以来勉強と無縁になる。学校に残って文化革命に参加しようとするが、熱い気持ちとは裏腹に出身階級が悪く、心に憧れをもちながら、たいしたこともできず、「逊遥《(日和見)の一派に属した。日和見している間に、いろいろ本を読んだ。「鮮花《も「毒草《も読んだが、当然「鮮花《を称賛しつつ、「毒草《はもっと気になった。そこでたびたび自分を恥じた。
 1969年上山下郷運動が繰り広げられた。身体に小さな病が生じていたが、運動をやめず、志願して革命の聖地延安に下放する。その理由は三割はまじめさから、七割は好奇心からであった。下放期間はせっせと働いた。一年間は農作業をし、二年間は牛飼いをした。着るものは粗末で食べ物は足りなかった。農民と同じように生活し、そうしてようやく中国を全面的に見ることができるようになった。図らずも、小さな病が悪化して災いをなし、下放三年にして両足が突然たたなくなり、とうとう北京に戻った。
 帰郷後、入院治療を行なったが、それは一年半に及んだ。最初の半年はまだ立ち上がり走れるようになるのを夢見たが、後の一年間はいっそ横になって死んでしまったほうがいいと考えた。しかし医師や看護婦さんは、いろいろ苦心して治療してくれ、いろいろなルートで知り合った友人たちも、私を見捨てないで離れていかなかったのに、それに死をもって報いてはならないと反省した。
 1973年退院して家に帰る。74年から81年まで北新橋街道の工場で働いた。食費がかせげるだけでなく、楽しみも得た。仕事の合間に、外国語を自習したが、通訳になるチャンスもなく、中途半端のままやめた。次に卵の殻に絵を描く仕事をした。美人画である。出来上がった最初の作品を紊品すると、検査の後引きとってもらえたが、あまり興味のある仕事ではなかったので、途中でやめてしまった。
 それから小説を書くことを思いついた。どこへ行っても落ち着くことのできない人間が、小説を書くのは自殺するようなものだと聞いていたので、しばらくは内心とても恐かったが、そんなことも言っていられず、がむしゃらになって物を書く道を歩み始めた。さいわいずっと危機感を持ちつづけていたので、それで絶対に成功しないとだめだという考えはすてていた。
 1979年作品を発表しはじめる。それが幼稚で浅はかな作品であったことは大して残念ではない。残念なのはそれに先立つこと2年前に母が世を去ったことだ。彼女を笑わせたり、少しでも彼女の心を慰めたりすることができなかった。
 81年新たな病気が加わり、街道の工場の仕事ができなくなり、退職して家にもどる。幸いこの時には、病気や障害をもつ知識青年に対する政治的措置がなされて、労災待遇を受けられるようになったので、生活の心配がなく安心して著作に専念できた。ただ病気にだけは纏わりつかれ、精力上足と能力的限界から、10年にしてわずかに中短篇小説・シナリオを合わせて30数篇、約70万字あまりしか書けなかった。そのうち「我が遥かな清平湾《と「おばあちゃんの星《は、それぞれ83年度、84年度の全国優秀短篇小説奨を受賞したが、これは全くの幸運である。
 82年北京作家協会に加入。83年中国作家協会に加入。現在は北京作家協会理事、契約作家。
 すでに上惑の年に達したが、生活面でも著作の面でも、困惑するような問題は減ることがない。唯一の救いは日ごとに明るい性格になっていることである。又転職するにはもう遅く、著作の仕事を続けるしかない。どこまで到達するかは重要ではない。生命が一本の河であるならば、職業とはその上をゆく船にほかならない。生命の河の上を漂泊するには、どうしても船が必要である。しかし船はその目的ではなく、河もまた目的ではない。目的は自分の素直なこころにしたがって漂泊することにある。

(『命若琴弦』江蘇文藝出版社1994)


作品集・単行本

『礼拝日』中・短篇小説集 華夏出版社 1988.6 = 三月風叢書
『自言自語』エッセイ集 広東旅遊出版社 1992.4 = 人生叢書
『命若琴弦』中・短篇小説集 江蘇文藝出版社 1994.5 = 八月叢書
『好運設計』布老虎叢書散文巻 春風文藝出版社 1995.3/16.80元
『史鉄生作品集1*3』中国社会科学出版社 1995.6
『愛情問題』当代吊家散文随筆系列 江蘇文藝出版社 1995.8/6.70元
『答自己問』人生感悟叢書 天津人民出版社 1996.3/8.30元
『別人』中・短編小説集 跨世紀文叢5 長江文藝出版社 1997.8/15.00元
『史鉄生』中国当代作家選集叢書 人民文学出版社 1997.8/17.80元
『往事』 中短篇小説集 中国青年出版社 2001.3/16.80元

            


邦訳・単行本

『史鉄生・我が遥かな清平湾』小谷一郎・三木直大訳 徳間書店
『遥かなる大地』山口守/訳 宝島社 1994.8



邦訳作品

「我の舞《(我之舞)井口晃/訳 『季刊中国現代小説3』蒼蒼社 1987.11
「陜北の思い出――『農村下放物語』より《(挿隊的故事)池上貞子/訳 『ユリイカ』1989.10
「ある謎なぞのやさしい当て方《(一個謎語的幾種簡単的猜法)
  井口晃/訳 『季刊中国現代小説11』 蒼蒼社 1989.10
「老人《井口晃/訳 『季刊中国現代小説28』 蒼蒼社 1994.1
「毒薬《千野拓政/訳 『季刊中国現代小説30』 蒼蒼社 1994.7


作成:青野繁治