オンライン現代中国作家辞典

Dài Hòuyīng
戴厚英
だい・こうえい
(1938-1996)


戴厚英自伝:

 私は1938年安徽省頴上県南照集で生まれた。父親は店員で、後に自分で小さな雑貨屋を開いた。母は文盲の家庭婦人であった。南照集は古い賑やかな田舎町で、多彩な民間芸術があり、私はそれらの薫陶をうけた。
 故郷で中等教育まで終え、1956年に上海華東師範大学中文系に入学した。
 1960年華東師範大学を卒業、上海作家協会文学研究所に配属されて、文学評論および文学理論研究の仕事に従事した。この間、いろいろな評論を書いたが、「左《の影響と制約を受けていたため、それらの文章は何も価値がない。
 1966年夏、真摯な情熱をもって「文化大革命《に参加したが、ほどなく自分自身「右傾《によって批判された。私の家庭も父が「右派分子《と間違って区分され批判されたために、この上ない苦労が待っていた。紆余曲折の人生は、私に自分や人生、歴史を真剣に考えさせた。そのことが、後に私が文学の創作に身を投ずる直接の動因となった。
 1978年の秋に小説創作を始め、今までに3部の長編小説を出版している。『詩人之死』、『人ロ阿人』、『空中的足音』である。これらは当代の知識分子の運命を描いた三部作である。その他にも中編、短篇、散文なども書いた。
 1979年復旦大学や上海大学で教鞭を執るようになった。現在私は上海大学文学院講師、広東省汕頭大学客員教師である。大学では主に文学創作心理学と文学理論を講義している。

人間の価値と運命を探求する

 私が小説を書くのは、まず第一に感情を吐露し、思想を交流させ、理解を求め、友人と呼び合うためである。同時に、創造的労働を追求する楽しみのためでもある。「伊茲事之可楽、固聖賢之所欽《という陸機の言葉は正しいと思う。
 けれども私は決して自分のために書くのではない。作家とくに中国の作家は何らかの社会的責任を担わなければならないことを私は知っている。私は祖国と人民を熱愛しており、自分の筆で祖国の人民を貧困と愚昧から抜け出させるために闘う。
 私は文学は人間学であると信ずる。今日の中国で、様々な道をたどって人間の価値と運命を探求し、理想的な生活とはどのようなものか研究することは、我が民族の素質を高めるために大変必要なことであると考える。
 私は自分にこのように要求している。すなわち、生活は人間らしく、授業では人について教え、作品中では人を書く。私は知と言、言と行の統一、人格と文格(文体のこと?)のを追求する。
 私は文学の命は真実性にあると考える。しかし私の言う「真実《性とは、単に客観的に社会生活の真の姿を提示するだけのものではなく、より主観的に自分の生活に対し感じたことや見解をありのままに表現することなのである。トルストイの「生活の色々な面、特に芸術領域において、唯一必要とされる消極的な品性とは嘘をつかないことである《という言葉は味わい深い。
 私は私が熟知している私を感動させた生活を書く。だから一般的な状況下では、私は取材に頼って創作することを好まない。けれども、万里の道を歩き、一万巻の書物を読破することによって、自分の心を豊かにし、思考回路を広げることができると信ずるので、機会があれば、どこにでも旅行に行き、各種の書物を閲読する。
 私は鮮明な芸術的個性をもった作家になりたいと思っている。思うに、作家であろうと作品であろうと、個性が無ければ無価値である。作家の才能には大小があり、業績には優劣があるかもしれないが、個性は何者にもとって変わることのできないものである。
 私の創作は自然に任せている。順調に書けるときに書く。でなければ書かない。だから私は書かないときも、速く書けるときもある。計画を立てて細い川が長く流れるように自分の創作の計画を立てるというのは難しいことだ。もし作品を書くのが負担となった時には、陸機が「理翳翳而愈伏、思軋軋其若軸《と言った通り、私は作家を辞めてしまうだろう。人生の苦悩はもともと充分たくさんある。わざわざ自らその上に苦悩を増やす必要などない。

(『中国当代作家百人傳』求実出版社1989)


補足:1996年、強盗によって姪と共に殺害され死去。

作品集・単行本

『人ロ阿人』長編小説、広東人民出版社、1981
『詩人之死』長編小説、福建人民出版社、1982
『鎖鏈、是柔軟的』中短篇小説、花城出版社、1983
『空中的足音』長編小説、花城出版社、1986
『脳裂』長編小説 太白文藝出版社 1994.4/1996.5三次印刷/11.70元
『詩人之死』長編小説 太白文藝出版社 1994.4第一版/1996.5第三次印刷/22.00元
『心中的墳』遺著 復旦大学出版社 1996.11
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邦訳

「きびとごま《辻康吾/編訳 『きびとごま』研文出版 1985.4
『ああ人間よ』大石智良/訳  サイマル出版会 1988

作成:青野繁治