阿成「離家出走」


01[整理番号]XY970305

02[作品名]離家出走

03[作者名]阿成

04[原載]『湖南文学』1997年第1期

05[頁]50〜54(5)

06[ジャンル]短編小説

07[時代]今

08[地点]山海関へ向かう列車、山海関、ハルピン(松花江の傍の公園)

09[手法]意識の流れ

10[視角]三人称

11[人物]老太太(秀蘭。もとは調理師。夫の暴力に悩む)、列車の乗客、中年の婦人(老太太の向かいの座席)、老太太の夫(“老灯台”)、狂った女性、山山(狂った女性の夫)車椅子の老女、痩せたおばあさん、自転車修理の少年、大家さん、老太太の弟、保母紹介所の人、保母派遣先の夫婦、町内会の計画出産担当員たち

12[題材]老人問題、夫婦、夫の暴力、退職後の生活、年金の問題、老人のアルバイト、家出、商売、買い付け、部屋を借りること、親戚関係、自殺、賄賂、一人っ子政策、保母紹介所、離婚、人の運命、徳、定期券の横流し、ブローカー、縁起。

13[主題]家庭婦人だが、商売の才能のある老太太の家出を通じて社会や人生の悲哀、老人のアイデンテイテイーを描く。

14[言語]普通語。会話文に方言有り()。老人の呼称が多い。料理の名前。

15[描写]会話の“”がない。家出の途中の列車の中で目的地につくまで回想という形で物語がモンタージュ的に展開する。語り口調で説明がない。男性作家だが、女性心理をリアルに描いている。

16[構成]全126段落、章立てなし。(1)〜(2)プロローグ(3)〜(12)老太太は山海関行きの列車に乗り込む。(13)〜(23)老太太の精神的な家庭は松花江のほとりの公園で、公園は老人たちの憩の場であり、老人たちへの偏見のないところだった。(24)〜(43)松花江の辺りではおばあさんたちが狂った女性の歌を聞いていた。そこへ老太太が現われる。狂った女性は老太太がその日の朝、朝食のことで夫に暴力を振るわれたことを聞き、同情し、離婚をすすめる。(44)列車の中でそれは自分の運命だと思う。(45)〜(54)狂った女性の定期券のブローカーのエピソード。(55)列車の中で車椅子の老女との会話を回想。(56)〜(60)広告板のところの公衆トイレは解体されることになり、工事中。そこで自殺した人がいて、その中には老太太の息子のように鬱病が原因で自殺した者もいた。老太太は車椅子の老女に自分に商賦があり、商売に夢中だが、夫が反対していることを話す。(61)〜(64)列車の中で早く死んだ最初の夫(いい人だった)を回想。(65)〜(66)車椅子の老女に過去の8ヵ月に及ぶ家出のことを話す。弟を訪ねようとしたが、弟の嫁に笑いものにされることを恐れてやめる。駅で自転車修理の少年に声をかける。(67)〜(72)列車で向かいに座っているに親戚に会いにいくのかと聞かれ、息子に会いにいくと答える老太太。息子が自殺した時のことを回想。(73)〜(89)自転車修理の少年の仕事が終わってから、少年の案内で部屋を借りる。その日は旅館に泊り、縁起のいい夢を見る。(90)〜(94)次の三日間、薪を集めて商売の相場を偵察。それから、果物の卸売りの市場へ行き、持ち前の商売の才能を発揮して、果物を買い付け、8ヵ月の商売で3万元を稼いだ。(95)〜(98)弟が老太太を探しにきて、老太太の夫の言う通り、市場にいた。次の日、夫が迎えに来て、家に帰る。(99)〜(112)また別の家出の話をする。保母の紹介所に行き、ある家族のもとへ行く。そこの家では、妻が妊娠したので、家事をまかされる。しかし、夫に連れ子がいたので、町内会の計画出産の担当者が罰金をはらわないといけないといって脅しにくるが、払おうとすると受け取らず、産まないよう説得しようとするので、老太太は妻に担当者たちを家に呼んで、こっそり賄賂をわたすようにアドバイスする。結局それは大成功。(112)〜(122)老太太の親切に感動する車椅子の老女に自分の前世で徳に欠けていたっからひどい夫に嫁いだのだと涙を流し、離婚を決意していること、離婚できなければ家出することを打ち明ける。(123)〜(126)山海関に到着。プラットホームに立ち人生に思いを巡らせ、流浪していこう、死んでも東北に帰るものかと誓う。

17[問題点]不安定な終わり方。現実味がない。

18[作者略歴]阿成、本名王阿成、男、東北の人。過去に労働者をしたこともあり、その小説「年関六賦」は1988年全国優秀短編小説奨を獲得した。本刊では「年関六賦」、「良娼」「気」「鬼子給上一虫帽子」などを掲載したことがある。現在『小説林』の仕事をし、中国作家協会の会員。

19[その他]50頁に写真有り。老太太の繰り広げる義理人情の世界に中国庶民の世界を垣間見ることができる。

20[報告者]島 由子(1997/10/22)