喬典運「満票」


[01整理番号]XX850508

[02作品名]満票

[03作者名]喬典運

[04原載]『奔流』1985年第3期

[05頁]94-103(10頁)

[06ジャンル]短編小説

[07時代]文革後/80年代前半

[08地点]何家坪 (河南〜河北〜山東省の辺りか)

[09手法]リアリズム(一部 フラッシュバック的用法)

[10視角]三人称

[11人物]何老十(男、何家坪大隊の老隊長、30年余りにわたって模範的な幹部を務めてきたが、今度の初めての村長選挙ではわずか二票しか得られず惨敗する)王支書 (男、30才前後、かつては何老十を革命の象徴として尊敬していたが、今では革命という観点に凝り固まっている彼に対して反発心を抱いている)張五婆(寡婦、一人息子〔小成〕の命を救われて以来、何老十に息子の養父を頼む)小成 (「割尾巴運動」の時、養父・何老十の党に対する忠誠心の犠牲となる)何双喜(男、何老十の紹介を受けて入党する)何老十の妻、息子〔何苦根〕、息子の嫁〔秀花〕

[12題材]文革前後を通じての農村における政策および人々の意識の変化、世代間の意識差、幹部、組織の指導力の低下、幹部間の世代交代、“模範的”革命人の人間性、 "割尾巴運動"、村人達の人間性(なぜ嘘をついているのか?)、存在の不条理、幹部を選ぶ選挙

[13主題]ある農村の村長選挙を題材に、改革・開放後の農村における、文革期(或いはそれより以前の)価値観に対する人々の意識の変化を浮き彫りにする

[14言語]普通語、一部方言(ex.p.95 中不中?)

[15描写]現在の出来事を軸に、何老十の心理独白と様々な人物の登場とが交互に積み重なり物語が展開される。新たな人物の出現のたびに、その人物にまつわる過去がフラッシュバックの形で再現される。登場人物の名前でその人物の性格が暗示される

[16構成] 章立てなし。73段落。1)−4) "大隊" が "村" に戻った最初の村長選挙で、元大隊長の何老十はまさかの落選を味わう。土地改革以降幹部となってから常に清廉潔白を旨として人民に奉仕してきたと自負する彼にとって、わずか2票という得票結果は大きな衝撃であった。5)−20)何老十の30年間変わらぬ恰好を見て、王支書は、子供の頃彼に尊敬の念を抱いていたが、その後いつまでも革命に固執し続ける彼に次第に嫌気がさしていった過去の自分を振り返る。だがひどく意気消沈した何老十を慰めずにはいられず、彼は何老十に投票したことを話す。(21)-(23) 河辺にやって来た何老十は今朝の出来事を思い出す。河に石を並べて渡れるようにし皆に感謝されるが、彼の訓話は軽くあしらわれ、彼は自分自身が軽視されたように感じた。(24)-(32) 張五婆に出会った何老十は、彼女が自分に投票した事を聞く。彼女の家は母一人子一人で、息子(小成)を何老十に助けられてからは彼に恩義を感じ、息子の養父として親しく行き来している。小成は腕のよい家具職人となるが丁度 "割尾巴運動" が始まり、党に対して責任を感じた何老十の働きかけで一家は仕方なく貯えを党に渡すが、その結果小成は市中引回しの目にあい、それ以来気がふれてしまう。張五婆は何老十を恨むが、生活を保護してくれる大隊の存在に次第に感謝の念を抱く。(55)-(60) 何老十は更に何双喜に出会う。彼は何老十によって入党を果たしたので、彼に恩義を感じて投票した、と話す。後から出会った村人達も皆口々に彼を褒め、彼に投票したと話し、何老十の頭は混乱する。(61)-(65) 妻の姿を見つけた何老十は今までの妻に対する冷たい扱いを思い出す。次は逆に自分の番だと恐れる彼を、妻は哀れんで涙をこぼす。何老十は妻の良さに目覚め、本当に自分に投票してくれたのは妻であったのだと気付く。(66)-(67) 何老十が家に着き、かつて模範家庭と表彰された頃の華やかな思い出に浸っていると、突然笑い声が聞こえてきた。(68)-(73) 笑っていたのは何苦根と秀花の息子夫婦で、息子が自分の妻に着飾らせて楽しんでいた。彼らは今まで父の幹部という立場に遠慮していたが、これからは気兼ねせず着飾って外を歩けるのである。何老十は腹を立て、嫁の気遣いも無視する。怒った息子は何老十の得た2票は自分たちが投票したものだと言うのだった。

[17問題点]選挙制度自体について真正面から検証を行っていない。

[18作者略歴]喬典運、男、1931年生まれ、河南省西峡県の人。1947年陝県短期師範学校を卒業後1949年解放軍に参加し、文化教員を担当する。1953年復員後帰郷して農業に携わり、1980年県文化局配属となり今に至る。1955年より文学創作を始め、ここ30年来、農村生活を反映した小説を100 篇近く発表している。その中の「笑語満場」は1981年の『北京文学』優秀作品賞を、「失眠」は 1981 年の『広州文芸』朝花賞をそれぞれ受賞している。

[19その他]

[20報告者]西辻真弓(1996.7.1)