01整理番号 xx990604,xy990602
02作品名 酒徒
03作者名王安憶
04原載『鍾山』 1999年第2期
05  51−62[12] 
06ジャンル短編小説
07時間現代 (2年ほど前の回想シーンから主人公70歳の誕生日まで)
08場所江南の某都市。 主人公の出張先の北方の某都市。
09手法リアリズム
10視角三人称
11人物彼(60歳過ぎで引退してから「市級文化単位」で「資料員」をしていた。今は隠居)、 科 長 主人公の職場にきた若者(北京の大学を卒業) の三人を中心に、 主人公の友人(アルコール 依存症で死んだ)、その娘、 酒場での人々 職場の同僚達、主人公の妻など。
12題材 酒、アルコール依存症、「老坦克」自転車、北と南の飲酒の違い、 「行令」、「猜拳」、「老虎 杠子鶏」、「潜水艇」によるイッキ飲み。二鍋頭(コウリャン酒)、「五粮液」、白酒、黄酒、茅台酒、 「大 曲」酒、「剣南春」、四川の「郎酒」、「南北貨」(意味不明)、「古越龍山」、話梅、冰糖、ナポレオン、レ ミーマルタン, アワビ、魚円蛋餃、黄芽菜、水缸、迎春花、
13主題 人生の終わりを迎えようとしているある男が、酒といかにつきあってきたかを心理描写で明 らかにしていく。
14言語 標準語
15描写 酒に関しての蘊蓄が豊富。 会話部分に引用符なし。 パラグラフの最初に時間概念を 置き、その後に事象を述べる傾向がある。
16構成 全41段 章立てなし。 1−7: 「彼」の飲酒について。 酒場で初めはゆっくり飲み始めるが、やがて水門の扉がひらくように なめらかになり、心も身体も軽くなる。 人にも酒を勧め始める。 周囲はやかましくなり、喧騒のなかで 彼はなお静かにのんでいる。 杯をあけると相手に空になった杯をみせ挑戦的になる。 顔はさらに 赤くなりブレーキは効かなくなる。 やがて酒量の比べあいになり、いかに主導権をとるかとなる。 彼 はますます元気で笑みもうかべて飲む。 彼は鼻すじがとおっていて一見ラテン風の顔つきだが、江 浙の出身で今は老いている。 笑いをかみしめるかのように、口をちょっと曲げ独酌している。 勧め られる酒ものむ。この段階になると彼はますます元気になり、頭髪にも光沢がでて若返ったかのようで ある。 周囲はもはや、酒の味もわからなくなっている。とにかく飲みつづける。 大騒ぎである。 こ の頃、彼はおもむろに両手を袖で拭いて店をでる。 人々は彼を追っかけるが後の祭りで結局、散会 となる。 彼は一番酒量が多いのだが、自分をコントロールすることができ、飲酒をやめるときはやめら れる。 なぜか? 9: 彼は酒が好きである。 毎食2杯はのむ。 日頃は酒場での彼のようではなく、ち ょっと精彩がないし、実際の年齢より年寄りに見える。 しかし飲むと言葉に表現力も出て、活力がでる ので、アルコール依存気味のようである。 ただ酒がなくても普通に社会生活はできるようで毎日、自 転車で通勤して、市の文化施設で資料員として働いている。 10: ある時、彼は出張で北部の都市へ 行った。 かなり粗暴な飲みかたをする土地で、酒の質が悪いのか体質なのか、すこし飲むだけで暴 れる風がある。 彼は一度、飲んでみたが流儀に合わないので再度、そこで飲もうとは思わなかったの で、すすめられても断った。 料理も質がわるく食べなかった。 11: 帰途、バスから途中で降りて米 粥を2杯を食べたら、やっとそれまでの不快感が治った。 12: 彼は酒席での余興は好きではない。 酒を飲む時は、酒を飲むことを中心にすべきだ。 ただ、今はやりの「潜水艇」というビールのなかに蒸 留酒の杯をいれてのむ方法は好きである。 この種の「イッキ飲み」は身体中の血管にアルコールが 急激にまわり、気持ちがいい。 13: 彼は酒に好き嫌いはない。安い「二鍋頭」から高級な茅台酒ま で飲む。洋酒もいいが、ビールは付けたしで、正統ではない。 いつも飲むのはごくふつうの大曲酒の ような白酒(蒸留酒)である。 料理でいうと、紅焼肉のようなものである。 14: 彼の酒の話はすこし長 くなったりするが、いやみはなく常識人の見解である。 ただなぜか黄酒(醸造酒)は料理用の酒だと 言って飲まない。 黄酒は江南では生活の一部で老若男女がのむので、彼が飲まないのは不思議で ある。 ただ、ある時、無聊の輩のせいで、黄酒を最後の切り札として彼は使ったことがある。 15: 年 末のある日。 彼の勤め先の部門で予算が余ったので、ある酒楼に同僚があつまり宴会をした。 赤 い提灯の光の下で粉雪が舞い、昔の年画のようであった。 みんなが酒楼の二階の真新しい部屋に 上がった。 16−17: 科長のよびかけで剣南春を注文したが、新人の若者が、主人公が飲まない黄 酒の古越龍山を注文した。 剣南酒の芳香のなかで、この若者だけが、黄酒をのんでいる。 やがて 次第に人々の酔いがまわりはじめた。 18: 料理も運ばれたりするうちに、若者が黄酒を主人公に勧 めるが、ちょっと口をつけるだけなので、気にいらないらしい。 19: やがて白酒も一緒に飲み始めた 若者が荒れはじめた。 メガネをはずし、上着も脱いで土地の子供のようである。 20−25: 「彼」は いつもより早く立ちあがって、人々に酌をはじめ、静かになった。 しかし、若者に酌をする時、酒を 少しこぼしたり彼はいつもと少し違う雰囲気である。 26−27: 新鮮なアワビが出てきてしゃぶしゃぶ (?)にして皆が食べたあと、 新人がまた黄酒をもってくるので、彼が不快そうである。 そろそろお 開きとなる。 店の外では、雪がしんしんと積もり、皆黙して帰ってゆく。 28: 彼は黄酒がよほど嫌い なようである。 しかも若い新人はそれを無視して、ある一線を越えていた。 29−30: 次に飲み会が あったとき、皆少し緊張して、飲んだがそれを感じた彼は、やがて酒の席からも仕事からも引退した。 それにかわって、若い世代が中心になっていった。 飲み方も、一滴のこさず注ぎ、飲むというやりか たは残ったが、皆だらだらといつまでも飲むようになった。 31‐33: 2年後、彼は数えで70になった。 誕生日に家で宴席が開かれることになり、茅台酒と料理で友人を招待して、夜、無事にお開きとなる。 自宅は旧市街にある昔風の平屋のレンガ作りの一戸建だが、早春の暖かい夜は趣がある。 客を見 送りに出た後、彼が夜の庭を散歩してると、急に門のところに二年前の若者が「剣南春」をもって立っ ていた。 34: 二人で酒をのむことになった。 若者はすでに結婚して子供もいる。 彼は、男に話し たいようにしゃべらせながら、自分の人生に重ね合わせて酒をたのしむ 35ー36: やがて、老人は 二年前のことを持ち出し、なぜ彼が黄酒をのまないかについて、告白しようとする。 37: 彼の死ん だアルコール中毒の友人の話。 一緒にだれかの家を訪問した時、突然その男は厨房に入り、料理 用の酒を飲みはじめた。 38―41: 老人の独白。 老人はかつて断酒しようとして、黄酒を死ぬまで 飲もうとしたが、嘔吐するだけで、死ねなかった。 やがて 彼は酒量がますます増えて、中毒気味に なり、酒の味はするが、すべて料理酒の味しかしなくなった。 更に匂いが、ひどくなったが実は自分 の胃腸からでた匂いだった。 話を終えると、彼は酒を三杯だけ飲んだ。
17問題点 作者は酒について、どのようにかんがえているのか? 主人公は黄酒を死ぬまで飲もう として、できなかったが、 ではなぜ白酒で死ぬまで飲まなかったのか? 「南北貨」が意味不明。
18作者略歴 女。1954年南京生まれ。 55年母親に従い上海に転居。 76年から創作を始め、現在、 上海市作家協会所属の専業作家。 著作として『王安憶自選集』。
19その他 p.55に挿絵あり 
20報告者 上田哲二