01整理番号XX990304
02作品名来也匆匆 去也匆匆
03作者名徐懐中
04原載『人民文学』1999年第1期
05(5)55〜59
06ジャンル短編小説
07時間現代(1990年代)
08場所北京付近及び離島の妙島
09手法リアリズム
10視角一人称
11人物私(語り手。人民解放軍の基地に勤務)、地震学研究院教授(私の友人。北京北西の郊外の県一帯で大地震が起こることを予測。)、女(未婚で若い。船から飛び下り自殺を図ったが死ねず、妙島で再び海に身を投げて自殺)、妙島レーダー中隊の幹部・兵士達(妙島に駐留している人民解放軍の部隊)、警備兵二人(女性を収容していた倉庫の出入り口で警備に当たる)、インドの古代文化学者(「横たわる死体を目にした時、人間は先ずその性別に注意を向ける」と主張)、妙島レーダー中隊長(妙島の最高指導者。女性の自殺後、ポストをはずされる)、中華美術学院油画系の修士の学生(特別召集され入隊し、妙島レーダー中隊で訓練を受けている)、人民解放軍基地政治部の主任、基地の指導者、女の両親(一人娘が自殺)
12題材 地震予測、唐山大地震、震度、魚水の情、軍事立入禁止区、死体(?)漂流、救助、迷彩服、自殺、自殺未遂、裸体、芸術モデル、女性の偶像化、人物画、水上クラブ、ヌードパーティ、私生活、名刺、肩書、キャリアウーマン、最有力ランナーのリタイヤ、エリートコースを外された軍人、自責、台風、軍用レインコート、白く細い裸足の足、「金蝉脱殻」の計、解放軍内務条例、女性の足跡
13主題 個人個人に起こった予期せぬ突然の大地震(大事件)。地震とはそもそも予測不可能なものであり、人生の中で、それがいつ起こるか、誰に降りかかるかはわからないということ。又、女性の死を通して、人間の生と死について問いかける。
14言語 標準語、仏語ex.人名;安格爾(アングル) 伊語ex.人名;莫蒂利安尼(モディリアーニ)
15描写 四字句や擬声語が多い。会話部分の引用符号がない。軍隊用語が多い。時間が事件の起きた頃と現在とを往来。状況描写がある。
16構成 エピグラム(『彷佛談道録』)+7章(全53段落)
エピグラム:もみくちゃにされた紙を水に浸しておくと、やがては元の姿に戻る。人の人生の過程も斯くの如し。
一章1〜7:私の友人で地震学の教授が、北京北西の郊外の県一帯で大地震が起こることを予測するが、地震は一向に起こらない。私はその原因を自分なりに考える。
二章8〜15:妙島で起きた思いもかけない事件。ある日、一人の女性の死体が砂浜に流れ着いたのをレーダー部隊の兵士達が発見するが、その女はまだ生きていた。女がどのように妙島に流れ着いたのか不明。暫時、妙島レーダー部隊で収容することにするが、四日目の朝、女は再び海に身を投げ自殺。
三章16〜22:砂浜に流れ着いた女を発見した兵士達が、口をそろえて非常に遠くからであったにもかかわらず女性だとわかったと言うのを聞き、私はインドの古代文化学者の言葉を思い出す。兵士達から女性発見後の話を聞く。長い間異性と接していない若い兵士達だが、女について話す時、女に対する軽佻な態度は見られず、逆に、女との出会いが生涯忘れ得ぬ光栄とでも思っているように私には感じられた。
四章23〜25:中国人が自殺をする時、身なりをきちんとして(『一絲不苟』)からというのが一般的だが、この女は全く逆で、わざと何も身につけず(『一絲不掛』)海に身を投げた。又、普通は、自殺が未遂に終わった者は死の恐怖を体験して二度と自殺しようとは思わないが、この女は違った。
  26〜30:油画系の学生であった兵士には、女が自力で起き上がり多くの視線が注がれる中、如何なる感情も表さずに兵士達の方に向かって歩いて来る姿が円熟したモデルのように映り、油絵のアトリエに戻ったような錯覚にとらわれる。又、女の大自然に溶け込んだ姿を見て、それがまさに自分の長年描きたかったものと感じるが、その美は誰にも描き出すことの出来ないものと悟る。
五章31〜35:私の各島のレーダー中隊訪問が終わり基地に戻った頃には、女の自殺事件の調査も終わり、結論が出ていた。女は妙島のまわりを航行していた水上クラブの遊覧船から海に飛び込んだのだった。
  36〜38:基地の政治部では調査結果の余りの平淡さに不満を持つ。未婚の若い女性が自殺をするのは大抵私生活に問題があるが、この女は社会的地位の高い多くの肩書きを持っており、女と同じ年頃のキャリアウーマンの中でもとび抜けており、どこをどう探しても、女の自殺の原因が分からない。
六章39〜44:女の自殺事件のために妙島レーダー中隊長はポストをはずされることになる。それはエリートコースから外れることを意味する。強い自責の念にかられ、女の両親に対し謝罪するが逆に慰められる。
七章45〜53:中隊長が、女の自殺前日に、翌日迎えの船が来ることを告げたために女を自殺させてしまったと悔やむ。又、事件当日の朝、雨の中をサイズの大きな軍用レインコートを着た者とすれ違い、その白く細い裸足の足に目が止まるがそのまま通り過ぎる。その後警備兵の報告でそれが例の女だったと悟り、慌てて海の方に走ってゆくが、そこには分厚くかたいレインコートが残されているのみ。女は来る時も去る時も慌ただしく、妙島に如何なるものも、足跡さえも記念に残していかなかった。
17問題点 リアリズムではあるが、あまりにも偶然が重なり過ぎで、現実にはありそうにない。
「地震烈度(震度)」(12度に分かれる)と「地震震級(マグニチュード)」(9級に分かれる)とが混乱して書かれているのではないか。「私」が、人民解放軍の組織の中でどのような地位にある人なのか不明。
18作者略歴 男、1929年に生まれる。河北省邯鄲出身。解放軍芸術学院文学系主任をしていた。著書に『徐懷中小説選』、長編小説『我們播種愛情』などがある。『西線軼事』が第二期全国優秀短編小説奨を受賞。現在、中国作家協会副主席。
19その他 第14段落四行目に誤植(「意」→「竟」)。表紙の裏の「作家故事」に徐懐中が紹介されている。原刊責任編集者:那辛、本刊責任編集者:馮敏
20報告者 西香織