岡田研究室

指導教官:
岡田 新
(おかだ しん)

略歴

早稲田大学政治経済学部政治学科卒業、名古屋大学大学院法学研究科修士課程終了、大阪外国語大学助手、文部省在外研究員としてオックスフォード大学マンスフィールドカレッジで在外研究、大阪外国語大学講師、助教授を経て現職。国際協力事業団招聘研修員の講師なども務める。
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専攻

イギリス現代政治史

研究紹介

私が主として関心を持って取り組んでいる研究テーマは、19世紀末から20世紀初頭にかけてのイギリスの選挙政治ー具体的には自由党の再生と衰退、労働党の台頭の基盤です。選挙データをさまざまな角度から分析することを通じて、イギリスの政治の大きな転換の基礎を探っています。

主要業績

共著

『近代世界システムの歴史的構図』 渓水社、1994年所収
『西洋政治思想史』 新評論、1995年所
『ネイションとエスニシテイ』、名古屋大学出版会、(共訳)1999年
『Classics of the Social Sciences』 嵯峨野書院、1999年
『日米の社会保障とその背景』 大学教育出版 2010年

主な学術論文

「自由党再生の選挙基盤」 『世界システムの変容と国民統合』、大阪外国語大学、1992年所収
「自由党再生の地帯構造」 『英語圏世界の総合的研究』 大阪外国語大学、1993年
「第一次大戦前の自由党と労働党」 『英米研究』 第19号、大阪外国語大学英米学会、1994年所収
「近代イギリス選挙史研究序説」 『イギリス研究の動向と課題』 大阪外国語大学、1997年所収
「選挙の歴史学」 『世界地域学への招待』嵯峨野書院、1998年所収
「ハロルド・ラスキの苦悩と孤独」『英米研究』第23号、1999年所収
「アイルランド自治問題とイギリス政治の転換ー1886年総選挙における自由党の分裂」 『グローバル・ヒストリーの構築と歴史記述の射程』 文部省科学研究費補助金基礎研究(A)研究成果報告書 大阪外国語大学、2002年所収
「19世紀末における自由党の衰退」、 『国際社会への多元的アプローチ』、大阪外国語大学、2003年所収
「自由党の衰退と反攻ー19世紀末イギリス総選挙と補欠選挙」 『英米研究』 第28号、2004年所収
「1906年総選挙と自由党の再生」、『英米研究』、第30号、2006年所収
「1906年総選挙における自由党の再生と労働党ー2人区の得票分析ー」 『英米研究』 第31号、2007年所収
「1906年総選挙における自由党の選挙基盤―1人区の得票分析」『英米研究』第32号、2008年所収
「自由党政権下の補欠選挙」『英米研究』第33号、2009年所収
「危機の時代の自由党」『英米研究』第34号 2010年所収
「けん制危機と勝利の陥穽ー1910年1月総選挙と12月総選挙」 『英米研究』第36号、2012年所収
「投票率と1910年総選挙」 『英米研究』第37号、2013年所収
「第一次大戦下の補欠選挙」 『英米研究』第38号 201年 所収

翻訳

ピータークラーク 「近代イギリスの選挙社会学」 (1)(2)(3)『大阪外国語大学論集』第8号、第10号、第11号

研究動向・書評

「自由帝国主義と新自由主義」(1)(2)、『大阪外国語大学論集』第5号、第7号所収
「書評 Martin Pugh, The Making of Modern British Politics 各版の異同と改訂の意味」 『EX ORIENTE』大阪外国語大学言語社会学会 第9号、2003年所収
その他、地域研究のためのブックガイドの編纂、大阪大学司馬遼太郎記念講演会の事務局として講演会の記録の編纂などにもかかわってきました。

『世界を学ぶブックガイド』 嵯峨野書院、1994年。
『書誌をつくる』 日外アソシエーツ 1997年
『日本文化へのまなざし』 河出書房新社 2002年
また大阪大学言語社会学会の学会誌『EX ORIENTE』の編集の実務を創刊号から担当しています。

メッセージ

イギリスは、近代の議会制民主主義と資本主義の揺籃の地です。しかしその歩みは、矛盾と葛藤にみちたものでした。現代のイギリスの抱える問題は、そうしたイギリスの苦悩にみちた歩みを如実に映し出しています。
 イギリス病といわれた現代イギリスの経済的な病は、産業革命以来のイギリス経済の発展のあり方と切り離して考えることはできません。白人の使命を掲げて人類史上最大の版図にまで拡大した大英帝国の残忍な支配の爪あとは、地球のいたるところで今なお激しい紛争の遠因になっています。そしてプロテスタントのイングランドが、容赦なく弾圧した「ジョン・ブルのもう一つの島」(アイルランド)が、最近まで血塗られた殺戮の場であったことを否定する人はいないでしょう。
 現代イギリスのそうした錯綜した矛盾を一つ一つ解きほぐしていくことこそが、大学院で取り組んでいる学問的な課題です。そのためには、何といってもまず、原資料を正確に読むという地道な作業が必要となります。歴史史料や歴史書をきちんと読む力を養うこと。それが学問の基本です。綿密な読む力に裏付けられないで、どんなに優れた思い付きをめぐらせても、堅牢な学問を建設することはできません。一方、ただ漫然と古文書の字面を読んでいるだけでは、決して新しい見方や研究方法は生まれてきません。通説的な見解に挑戦し、それをひっくり返し、タブーとされてきたような見方をとりあげ、自由闊達な思考の実験を繰り返すことが、学問の進歩には不可欠です。厳密なデータと自由な冒険という、相容れざる両極のたえざる緊張の中に、学問という知の営みが成立するのではないか、と私は思っています。
 大学院生には、なによりも自分のテーマを追いかけて立派な修士論文を仕上げるという大きな仕事があります。学部生の間は、何よりもいろいろな本を読んで知識を吸収することが求められます。しかし大学院では、既存の研究を踏まえつつそれを批判し、オリジナリティーを発揮することが求められます。それは、身を削るような苦しみでもありますが、同時に、学んで問うという学問のスリルと醍醐味を味わうかけがえのないプロセスでもあります。
 言社専攻の大学院は、既存の学問のディシプリンをとっぱらった、英米の言語と文化という共通項でくくられたインターディシプリナリな色彩をもった大学院です。学際的な大学院は、往々にして、まとまりのない寄せ集めになりがちですが、外国語大学の長い歴史を背負った言社専攻の大学院には、言語の運用能力を基礎に、言語と文化を深く探求するという太い芯が通っています。中でも英語部会は、アメリカ研究、イギリス研究という、学際研究の中でも最も長い歴史と深い蓄積をもったフィールドを戦場にしています。学問の奥深さと、喜びを味わおうとする人には、絶好の狩場といえるでしょう。
 改めて解説をするまでもなく、19世紀の世界の覇者であったイギリス、20世紀の世界を主導するアメリカを抜きに、現代の社会や文化を理解することは、全く不可能です。英米の言語や文化については巷には情報があふれかえっているように見えます。だがその多くは、確かな知識の裏づけのない皮相な観察に過ぎません。私たちは、英米の言語、文化にどっぷりとつかって、その奥底にあるもの、その光と影を真剣に探求したいと思う皆さんの参加をお待ちしています。
 アイルランド出身のジョージ・バーナード・ショウは、歴史を学ぶ意味をぐさりと問う警句を残しています。その言葉を引用してこの稿を閉じることにしましょう。
Hegel was right when he said that we learn from history that man can never learn anything from history.