ヨコタ村上 孝之

ロシア語学習について

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若者の生活・文化のことを肌で感じながら、文法の学習や読み書きの技術の習得よりも、聞き、見、話し、慣れることに重きをおいた教書、『ロシア語を学んで、ロシアを知ろう』を刊行しました。(2008年)

ロシア語学習についての、ぼくの意見はその序文に書きました。ここに引用します。

 大学でロシア語を教えるようになって二十年になります。いろいろな教科書を使ってきましたが、いくつか不満がありました。一つは、どの教科書も基本的に文法事項の習得を第一目的にしていて、それにそってテキストなどが作られていることでした。動詞の活用や名詞の変化形を覚えさせられたりというような無味乾燥な作業を繰り返すうちに、学生は興味を失ってしまいます。もう一つの不満は、学生が関心を持つようなテーマが選ばれていないということです。ロシア文学、バレー、ロシア民謡、そういった、かつては日本人の(そして、ロシア語教科書執筆者たちの)心をとらえたものに、残念ながら、今の大学生はほとんど興味を示しません。彼らが知りたいのは、ポピュラー音楽やスポーツやテレビドラマだったりするわけです。

 この教科書はそうした反省から作られました。学生にとってのアクチュアルなテーマに応じた編集にして、学習を「生きた」ものにしたいと思ったからです。ソ連の崩壊とインターネットの普及などで、ロシアやロシア人は遠い、抽象的なものではなくなりつつあります。一年間の学習のあとで、学生諸君が、かりにチェーホフを読めたりはできなくても、あるいは、きちんとした文章を書けなくても、町でみかけたロシア人にブロークンでもロシア語で何かコミュニケーションできたり、または、する気になったり、インターネットでロシア人と少しはロシア語で文通ができたり、ロシア語が、彼らの現実に、生身のからだに、ちょっとでもなることができたらと願っています。

 こうした狙いから作った教科書なので、今までのものとはかなり使い勝手が違います。文法説明は最小限にしました。文法事項よりも、フレーズを中心に学習してほしいと思います。役に立ちそうなフレーズは太字にしてあります。文法的に難しい表現もはじめの方のレッスンからどんどん出てきますが、意味が解析できるようになることよりも、表現をまるごと覚えてほしいので、とにかくそのまま覚えて、先に進んでいただきたいのです。また、読み書きより、オーラルなコミュニケーションを強調していますから、文字の読み方や発音の仕方は教科書のいちばん最後に配しました。むしろ、DVDを活用していただいて、耳から入っていただきたいと思います。学習者で、文法がどうしても気になる方は、大阪大学出版会のホームページ(http://www.osaka-up.or.jp/ISBN978-4-87259-166-8.pdf)を見ていただければ、説明があります。この教科書を個人の自習用に使う方も、そこをご覧になれば、ひとりで勉強できるようになっています。

 DVDに出演しているのは、ぼくの家族や大阪大学の留学生とかです。彼らと知り合いになってください。そして、もし、彼らを町で見かけたならば、ぜひ、恥ずかしがらずに、覚えた表現を試してみてくださいね。